※一応「青春中な僕らのくだらない話」の続きである。



俺の先輩は大概馬鹿である。
テニスしてる時は怖いくらい真剣で、敵に回したら面倒なのの集まりな癖して、あの先輩達、主に仁王先輩と丸井先輩、そして二人とよくつるんでいるの三人は果てしなく馬鹿だった。ああ、俺が言っているのは何も学力だけの話ではなくて、精神レベルでの話である。

体育着の入った袋を振り回しながらテニスコートへ向かう。日直だったために部活の時間に若干遅れ気味だった俺は、グラウンドを突っ切ろうと歩みを進めていたが、そんな時、見慣れた赤い髪が校舎裏にかけていくのが見えた。しかしもう部活が始まってもおかしくない時間である。
俺は気になって彼を後を追えば、そこに校舎の影から何かを覗き込んでいる丸井先輩の背中を見つけたのだった。


「丸井先輩?」
「うお!?…って何だ赤也かよ、おどかすな」
「何してんスか」


突然の俺の登場に肩をびくつかせた先輩だったが、俺がそう問えば、丸井先輩はあれだよと覗いていた先を指した。そこには仁王先輩がいて、前には女子。見るからに告白真っ最中である。こんな所を見るのは少し躊躇われるのだが。ていうかそもそも丸井先輩はこんなの興味ないだろうに、最早さ。俺はそう、丸井先輩へ視線を戻した。
すると彼は俺の言わんとすることを悟ったらしい。ああ、と何かに軽く納得したように頷いてからいつもの調子で口を開いた。


「告白されんの、一人じゃなんか怖いんだってさ」
女子か


じゃああの人はここに丸井先輩がいることを知っているのか。そうと分かれば盗み見の罪悪感も消えると言うものである。そうして再び俯く女子を前にした仁王先輩の方へ目をやれば、彼女が何かを話してると言うのに完璧に視線はこちらに向いている。あ、赤也じゃそんな顔をした。いや、ふざけてんスか。


「あの、仁王君、…?」


とうとう先輩の視線が自分より後ろに向けられていることに気づいた女子は、さりげなく後ろを振り替えった。うおおおやべえええ!俺達は持ち前の瞬発力で脇の校舎に隠れる。ほんと仁王先輩やめて。
何を考えてんだあの先輩、俺はそう丸井先輩に同意を求めようと先輩を横目で窺うと、彼は腹を抱えて「危機一髪すぎだろいぶははは」なぞと爆笑しており、ああ、明らかにこの状況を楽しんでいる。もうなんでも良いから声のボリューム下げて丸井先輩。


ていうか怖いとか言っておきながらあくびとかしてますけど。リラックスしすぎなんスけど
「ぶははは」
もう聞いちゃいねえ


相変わらず仁王先輩は彼女が俯いているのを良いことにこちらに手なんて振り始める。馬鹿なんだな、きっと。もう部活行こう、心の中でごちた時だ。急に仁王先輩の後ろをに人影が見えて、しかもそれがどんどん近づいてくるではないか。おいおいこのままじゃ告白中のこの微妙な雰囲気に割り込むことになるぞ、誰だアイツは。
すると目を凝らす俺の隣で丸井先輩がぽつりと、


「…アレ、は…部活の様子を見に行かせたか」


アイツもグルかい。ていうかそれならワザワザ告白中の所に突っ込んで行くか?しかし俺とて飛び出していける人間でないので、ハラハラと動けないでいると、ついに「仁王ー」なんて叫んでガチで空気をぶち壊しに入った先輩は息を切らして、唖然とする女子の前に止まった。
ちなみに言うと丸井先輩はアイツは馬鹿かと爆笑している。あなたも相当だと思いますけど。
先輩は呼吸を整えてからわたわたと腕を振って仕切りにニュースニュースと叫んだ。


「幸村が真田殴ったって!」
「なんじゃとマジか」
「よし行こう」
「待って俺も!」


最早隠れる事は意味をなさなくなったこの状況で丸井先輩は先輩の言葉にその場を飛び出した。いや、「俺も」じゃねえだろおおお。バタバタと騒がしく去っていく仁王先輩達の背中を見送る俺と女子。ちょっと彼女が哀れに見えた。そんな女子はちらりと俺を見るなり堰を切ったように泣き出した。
あーあぁどうすんのこれ。
ていうかそもそも何で仁王先輩は丸井先輩を告白の付き添いにしたのか、何がしたいのかわからない。まあいつもだけど。
ていうか先輩の空気読めない加減が笑える。それに真田副部長が幸村部長に殴られる事にたかるとか、――まあ俺も今から行くんだけど。


「先輩待って下さいッスー」
「おー、早くおいでー」



そうして俺も走り出す。


俺も大概馬鹿である。
( お前も行くのかよ )   ( 残された私は、一体 )




(こんなくだらないものまた楽しい// 120421 )
高3最後の更新。受験頑張ってきます。それではまた来年。