協調性のない奴って正直、俺は嫌いだ。だからと言って話す事が苦手な奴に無理やり話させるなんて事はしないし、話せない事を責めるつもりは毛頭ない。ただ、相手に気を使って相槌を打つだとか、作り笑いでも笑うとか、周りに合わせて行動すべきじゃないか。
とまあ、俺は小学生ながら常々そう思ってきたわけで。それでも、中学ではあの有名なテニス部に入るつもりだからそんなめんどくさい人間はいないだろうと、俺は新たな環境に胸を踊らせていたわけだ。が、入ってびっくり。…いたのだ。協調性という言葉が頭からすっぽり抜けたような変な女が。テニス部に。
おはようと声をかけても返事をしないかこちらを一瞥して終わり。先輩には一応それなりの態度をとっているらしいが、それは如何なものか。三年になったら俺達が協力して部活引っ張ってくんだぞ。そんなこんなで、入部してから早くも二ヶ月。ついに俺はこの苛立ちを友人にぶつけることにした。


「というわけだ。ジャッカルどうしよう」
「あのなあ…ほっとけば良いだろ。男子ばっかだからまだ緊張してんじゃねえのか?」
「女のマネージャーの先輩いるだろい。それに、だったら入らなきゃいい」
「まあそうだけど、でもアイツ、誰かに誘われて入ったとか」


ジャッカルの台詞に、なるほどアイツにも友達がいたかと頷いた。しかしそれは誰だろうか。普通誘われて入るくらいだから仲が良いはずだろう。部活で誰かとあまり話している姿を見ないが。ラケットで地面をグリグリ押していると、不意にそこへ影が落ちた。


「ちょっと、邪魔なんですけど」
っ!?…わ、わりい」


ジャッカルは小心者だ。優しいとも言うが。話を聞かれてやいないかとビクつくように、突然現れたに道を開けた。つうか、ふうん、コイツって言うんだ。知らなかった。わざと聞こえるように呟いたらジャッカルにどつかれた。


「おい、お前さ」
「君、誰」
「丸井ブン太。二ヶ月も一緒に部活してんだから良い加減覚えとけ」
「自分こそ覚えてないくせによく言うね。笑っちゃうよ」
「お前が笑った所なんてみた事ねえや。笑えるならやってみろい」
「お、おいブン太」


俺はをじろりと睨みあげた。しかし彼女は怯む様子がない。神経が図太い、というよりまるで心を閉じて言葉を聞いていないようにも見えた。彼女が何を考えているのか全く分からない。


「『丸井君』は頭の色と言い、喋り方と言い自己主張激しいね。もう少し黙れないの?」
「…このやろ」
「それと、先輩達が呼んでますよ。じゃ」


淡々と言葉を吐き出して、彼女は俺達の間を通って行った。ちくしょうちくしょう何だってんだアイツ。なんだかフツフツも沸き上がるものを感じて、それが抑えられなくなり、つい、彼女の胸ぐらを掴んで頭突きを食らわした。あくまで軽くである。


「ブン太!?」
「…殴ったな」
「殴ってねえ!頭突きだ!」
「どうでも良いわ!女に手をあげるなんざ、さいってーだな!」
「うるせえ!お前もう少し愛想良くしやがれ!大会が近いんだぞ!部員とコミュニケーションとってみろい!」
「安心しろテメエとは頭下げられたって仲良くしてやんねー!」
「んだとゴルァ!」
「お前達何してる!」


騒ぎに気づいて、部長や部員達がこちらへ集まってきた。先輩達の声に、我に返った俺は女子に手をあげてしまった事に少しだけ後悔する。一体何だと俺達を怒鳴りつける部長を前に、俺はとりあえず隣で地面に座り込むに謝ろうと口を開こうとした。…が、がワッと両手で顔を覆うと、ワザとらしく「丸井君が、急に殴ってきたんですっ」と泣き真似を始めたのだ。っコイツ!


「本当なのか。何を考えている丸井!」
「え、は、…っすんませーん」


……とりあえず。すごく不本意な形だったが、それから彼女に謝る事ができた。そうして何とかこの事件は落ち着いて、先輩達も掃けてから、ようやくは顔を上げて立ち上がった。


「余計な体力使わせてくれてありがとう」
「いぃいいええぇ。演技派なんですねえ。サンは」
「真面目に生きる方が馬鹿だからね。こんな世の中。嘘ばっかり」


タオルの入った箱を抱え直してそう言ったは、今までに見た事がないくらい、悲しげだった。そうであったからか、なんだか居ても立っても居られなくなった。ただ、俺は幸村達のように気が使えるわけでも、この状況にあった台詞をはじき出す頭もないから彼女にどう言うべきなのかは分からなかったが。


「それじゃ」


多分、俺がを放っておけない人間だと思い始めたのは、この時からだろう。

ちなみに、この後、わけも分からず柳にのクラスから何からできる限りの事を聞き出して彼女について探っていたことは、今でもしっかり覚えている。


今考えると、ほんと、笑っちまうよな。




冷ややかなその手のひらに温もりを 1
(それが俺と彼女の始まり)

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( ブン太の誕生日だから彼づくし / 130420 )