それから数日後。 「それで、あんたはここにこうして帰ってきたわけだ」 目の前でずぞぞとジュースを啜るソノちゃんが言った。隣では、が「ちょっと大人っぽくなったんじゃない?」なんて私の頭を撫で回している。久々で少し照れるけど、嬉しい。うへへへ。相変わらずクールな視線を向けるソノちゃんの前で、私があまりにだらしない顔を晒していたからか、彼女は小馬鹿にするように笑った。「どーこがよ」と。 「何も変わってないじゃないよ」 「そ、そんなことないよ」 「、あんたあと一週間くらいいても良かったんじゃないの?」 「びえええ」 久々に会ったのにあんまりである。これはいつものツンデレだと思って良いのだろうか。本当はもっと早くにあんたに会いたかったよの裏返しと思って良いのだろうか。 「んなわけあるか!」彼女は私のトレーからポテトを根こそぎ攫って行くと、自分の口に放り込んだ。「お前思考が口かはダダ漏れだぞ」ああああ久々のマックなのにいいいい!!は私を慰めることもせずに、私のテンションが変わっていないことに安心するばかりだった。通常運転です。 「んで、はどこらへんが成長したの?」 「さっき大人っぽくなったとか褒めてた人がいきなり何を」 さっきのは嘘か。嘘なのか。 失礼な二人に「私は自立したのだよ」と鼻を鳴らして言えば、彼女達はさぞ興味がなさそうに、ふうんと頷いた。「それで、どこらへんが成長したの?」「今言いましたがっ!地味に傷つくんでけどォオオ」どこに行っても私のポジションは変わらないらしい。 「じゃあ皆はどんな感じなの?やっぱりすごい?」 「それがさ、皆サイヤ人になれる技を習得して」 「つくならもっとマシな嘘つけ」 「しゅみま、しぇん」 ソノちゃんにガッと顎を掴まれて私は震えながらそう答えた。相変わらず彼女は怖い。私は皆も自立したよ、うんうんなんて雑な言葉を返していると、その時丁度携帯が震えた。着信のようだ。二人に断りを入れて通話ボタンを押す。堀尾君から? 「はい、で」 『先輩ですかああああ!こちら堀尾です、今切原先輩が、痛!ちょ、白石先輩止めて、痛ーーー!』 「……」 突然、携帯からは騒がしい声が飛び込んできた。遠くで真田の「赤也ああああ!」なんていうお馴染みの怒鳴り声も聞こえて、もソノちゃんもギョッとした顔で私を見つめている。何かあったのだろうか。きっと彼は私に助けを求めに来たのだろうけど。しばらくすると悲鳴を上げていた堀尾君の声が途絶え、おそらく向こうで受話器が床に落ちた音が聞こえた。どうしよう怖い。何があった。 そのあと私は固唾を呑んで誰かが応答するのを待っていたのだが、今度は後ろの喧騒には似合わないのんびりした声が。 『あ、?』 「ま、丸井?」 『おおまだ繋がってたか。良かった。そ、俺。あのさー俺の非常食どこだっけ?』 「…非常食って、あの青い袋の」 『それそれ!昨日真田にお菓子没収されてよ、…あ、ちょっと悪い。おい、うるせえぞ赤也!あっ、てめ、何勝手にやってんだ!』 『ー!?またレストランのたこ焼き切れてもうたん。送って来てえなー!』 『金ちゃん何してんねん!いけません!』 『やって白石、ワイ、』 「さようなら」 ブツ、私は勢い良く電話を切ると、その電源すら落とした。目の前の二人は最早食べる手を止めて、呆れ顔でこちらを見ている。言いたいことは分かるよ。 「Oh,chaos」 「何故英語で言った」 「いや、かっこいいかと」 「お前ばっかじゃねえの」 そんな言い方しなくても。しょぼしょぼ口を尖らせる私の横で、が窓の外をぼんやり見つめながらこう言った。「自立ってなんだっけ」「自分で立つことよ」至極当たり前のことをソノちゃんが言った。彼女はやっぱりお前ら成長してねえよとでも言いたげに、頬杖をついて私にガンを飛ばしている。え、ちょ、ガラ悪!そんな苦笑いしか出ない私に、は改まってこう問うた。「ねえ、」「ん?」「皆やっぱりがいないと駄目みたいだけど、」…はい? 「また合宿に戻れるってなったら戻りたい?」 中身が既にからからの飲み物を啜って、解けた氷の味に顔をしかめながら、私はそれを放り出した。何を言うのかと思えばそんなことか。答えは決まっている。 「ノーに決まってる、冗談でしょ」 そうして私のあっさりとした言葉に、二人は噴き出したのだった。 当たり前だ。日常を望む私からしたら、自分から非日常に飛び込むようなことはしたくない。 きっと、こんなことは二度目はないと思う。 今回だけ特別なのである。 だってこれは、 立海マネジの非日常の 出張版ですから (こんな重労働、そうそうあってもらっちゃ困るよ) ←まえ もくじ あとがき→ ( お付き合いありがとうございました。次はあとがき / 130929 ) |