始まりは一通の手紙からだった。

全国大会が終わり、私達の生活はだいぶ落ち着きを取り戻していた。とは言っても敗者である私達に休んでいる暇などないので、普通なら引退していてもおかしくないこの時期まで三年は部活に顔を出し、1,2年をしごいているのであるが。ちなみに言うと、私もそこに付き合わされている一人である。


「ああ、、丁度良かった」
「あ、白鳥先生」


十月の末の寒さに自らの肩を抱きしめて、通気性の良いマネジジャージに文句を零しながら歩いていた時だった。そうやって私を引き止めたのは担任の白鳥だった。瞬時に最近働いた悪事の事に思考を巡らせたが、どうにも思い当たる節がない。それでは何事だろうと首を傾げていると、彼は手に持っていた紙の間から何やら手紙を探し当て、それを私に差し出した。


「テニス部宛だ。お前、確かマネージャーだろう」
「はあ、誰からですか」
「えーとなあ、U17とかなんとかの」
「…アンダー…セブンティーン?」


受け取った手紙の裏を見ると確かにU17合宿実行委員会と記してある。当然テニスの合宿だろうが、U17という事は高校生も含まれるという事だ。何でこんな時期にいきなり。イマイチしっくり来なかった私はもう一度、はあ、なんてよく分からないタイミングで相槌を打った。


「17歳以下って、またえらい合宿にご招待されたもんだな」
「流石王者立海ってやつっすね。最早アイツら人間じゃないし、私達とは別次元っつーか」
「あ、それ、の名前も入ってたぞ。透かしたら見えた」
「いや透かすなよっていうか、は?」
「じゃ確かに渡したからな。頑張れよ」
「え、いや、ちょ」


私の言葉なんて聞こえてないかのように、白鳥は喋りたい事だけを喋って職員室へ戻っていった。取り残された私は、切れかけた蛍光灯に手紙をかざす。しかし、私にはどうにも自分の名前は見えなかった。


「…えええー…?」


……。

白鳥の冗談だという事にしておこう。



私が校舎にいたのはたんに教室に忘れ物を取りに行ったという理由だけだったので、それから私は手紙を持って部室に戻った。丁度全体で休憩中だったので、全員を集め、事の次第を適当に伝えて幸村へ手紙を託す。事の次第といっても正直白鳥とはまったく大したやり取りをしなかったので、幸村はかなり聞き流しているようだったが。ちなみに私の名前のくだりは省かせていただいた。


「何と書いてあるんだ、幸村」
「…どうやら17歳以下を対象としたテニス合宿をするらしい。俺達、つまりレギュラーメンバーに合宿に参加する権利を与えるって書いてある。まあ強制じゃないみたいだけど」
「U17…、聞いた事があるな。ーー俺達が呼ばれているという事は恐らく、青学も呼ばれているという事だろう」


柳の言葉に皆がぴくりと反応した。青学…、全国優勝校だし、確かにそうなるだろう。しかも、元々高校生対象の合宿らしいし、中学テニスの底上げが目的らしいから、青学や立海だけでなく、例えば氷帝、四天宝寺などの全国出場した強豪達も呼ばれている可能性が高い。


「皆、行くよね」
「無論だ」
「良いデータが取れそうだ」
「当たり前っすよ!」


手紙の内容からして設備はかなり充実してるらしい。それにライバル達が揃うとなればコイツらがいかない訳がないか。やんやと騒ぎ出すレギュラーをぼんやりと眺めながら頑張ってーと緩くエールを送ると、幸村が何言ってんだよと手紙を私に向けた。


の名前も書いてあるだろ」
「…うえええ!?マジかああ!」


やっぱり白鳥の話は冗談じゃなかったのか!幸村から手紙をむしりとって自分の名前を何度も確認する。レギュラー達の名前の下に、
上記の皆様が参加なさる場合は様も合宿所までお越し下さるようお願いします。
と確かに書かれていた。


「え、誰かいかない人いないの?」
「いや、行くよ皆」
丸井行かないよね
「なんで名指しなんだよ!」
「仁王行かないよね!?」
「まあ暇じゃからのう」
「勘弁してよ。私ただのマネージャーだよ?」
「だからだろ」


マネージャーなら合宿所で俺達の世話をすべきじゃないかと言わんばかりの笑顔を私に向けたのは当然幸村だった。ぐわわわ。なーんてこったあ、パーンナコッター。つうか何で微塵も活躍していない私の存在を知っているんだ。頭を抱えていると、不意に柳が、ふむ…と声を漏らした。


「しかし、妙だな」
「何がッスか?」
「こんなに設備やトレーニングマネージャーが充実した施設にも関わらずマネージャーを呼んだ事だ。…そして一番の疑問は、が俺達と別枠で招待されているこの内容」
「別枠?」


何それどういう事。柳の手に渡っていた手紙を再び覗き込むと、彼は私の名前を指差した。私の名前は皆の名前が書かれている場所より確かに二三段下にあるが、それはマネージャーだからではないのだろうか。


「そこだけではない。この書き方は、だけは合宿に来いと書かれているだけで、それ以上は求められていないということだ」
「えと、つまり、どういう事だよ?」
「ブン太、簡単に言えば俺達は合宿所に寝泊まりをしに行くという事だ。しかしにはそこまで要求されてはいない」


つまり、マネージャーをやらせるために呼んだわけではないと?
そうなれば、日帰りもあり得る話だ。こちらとしては万々歳な話だが、それなら一体どういうつもりで私を呼んだのだろうか。


「考えすぎではないのか?」
「……。ああ、そうかもしれない」


真田の言葉に少し考え込んでから、柳は頷いた。何と無く表情が柔らかくなった気がする。まあ今は皆でまた合宿でテニスができる事が嬉しいのだろう。


しかし、私はこの時一人、まだこの手紙に違和感を覚えていた。

そしてこういう事に限って、私の勘は当たるのである。



浮かぶ疑問符
(さて、新しい非日常の始まりだ)

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( はい、始まりましたU17編!マネジの二期というわけではありませんが、マネジをご愛読くださった方にまた楽しんでいただけるよう頑張ります / 130502 )