先輩の実力の話04



!attention!
・このお話は強いヒロインを書きたいがための回です。
・ヒロインに苦戦しているキャラを見たくないという方はブラウザバック!
・戦術を立てているように見えますが全く中身はありません。恐らく矛盾だらけの上にトリガーの使い方などなども間違っているやもしれません
それでもよろしいです、という方のみどうぞ…!


雨音に紛れて、刃同士の擦れ合う甲高い音が響く。雨さえも切り捨てるように振るわれた荒船先輩の弧月は、スナイパーへ転向したとは思えないくらいキレがある。それをすんでのところでかわすとハウンドで反撃を繰り出したが、荒船先輩は見切ったようにそれらをシールドで防いだ。
ああ、雨がうざったい。瞼にかかる煩わしい雨粒を乱暴に拭う。
出水との連携でまんまとスナイパーの位置を特定した私は、菊地原を出水に任せて、荒船先輩へ突っ込んでいった。てっきり荒船先輩は逃げると思っていたが、どうやら私との剣比べを選んだらしい。私のは剣じゃないけど。
わざわざマンションの屋上で私を待ち構えていた先輩と私は、対峙するや否や互いの弧月を叩きつけ合うように力任せな戦い方を繰り広げていた。

遠くで派手な爆発音が聞こえる。どうやら出水が大暴れしているようだ。菊地原は頭も悪くないし機動力もあるから、出し抜かれたりしなければ良いが。
ハウンドの爆煙が消える前に、私は間合いを詰めた。荒船先輩も即座にそれに反応する。U字に切り上げようとした弧月は振り落とされた刀身に押さえつけられた。まるで刀が鳴くようにギィギィと互いの弧月が音を立てている。

「……っのやろ、」
「ほんっと馬鹿力だな!」
「何ですか、っ女は慎ましくでもしてろって?」
「いや、悪くないって話、だ!」

荒船先輩は押さえつけた弧月を水平に振り、それを持ち手で受け止めたが、まるでフルスイングの要領で、私は空へ投げ出された。は、どっちが馬鹿力だよ!
体を捻らせて空中で私は体勢を立て直す。逆に相手との距離が開いた良いタイミングだと思ってカメレオンで後ろから攻撃してやろうと、身構えた。そのときだ。

!》

ビリ、と走る緊張感。カメレオンを起動する暇もなく出水の声と同時にすぐ後ろの闇の中で俄かに誰かの気配がした。反射的にグラスホッパーを踏み直し、宙返りしてその「気配の後ろ」に回り込むと私は鎌を振りかぶった。
ギィンッとそれは振り抜かれることなく、途中で止まる。そこにはシールドで弧月を押さえ込んだ菊地原の姿があった。――やっぱりお前か。

「……こっちが仕掛ける前に攻撃してこないでよ」
「これは失礼」

眉を顰めた菊地原が容赦なくスコーピオンで斬りかかる。私は荒船先輩と菊地原からそれぞれ距離を取ると、《ちょっと出水。こっちに菊地原いるんだけど》なんて出水に通信をはかった。しばらくの間ののち、あー……なんてバツの悪そうな声。

《菊地原に出し抜かれたっぽい、です》
《あー、うちの菊地原はよく頭が回りますこと》
《……それから、すぐそっち行きたいんだけど閉じ込められてるみたいなんで少し待ってください》
《……はい?》

出水の話によれば、菊地原があまりにカメレオンで攻撃を仕掛けてくるので、彼は警戒をして慎重になっていたそうだ。別に間違った判断じゃない。けれどしばらくして、いつまで経っても菊地原が攻撃してくる気配がなく、辺りが静かになったので、まさかとレーダーを確認したら、菊地原の反応が私の方へ移動していたのだとか。ちなみに、菊地原は出水の弾丸を何とか避けるフリをしながら、マンションの部屋の壁やものを破壊させて、出られないようにうまく誘導していたそうだ。

《壁を吹っ飛ばすことはもちろんできるんだけど、多分俺が埋もれる》
《ふざけんな。早く来い。無傷で来い!》
《無茶言うな》
《ていうか諏訪さんだって絶対出水の合流待ってるんだからね!》
《いや、本当マジすいませんだわ。……つうか、そういや諏訪さん、さっきから応答が、》

ないな、恐らくそう続くだろう言葉を出水が言いかけたときだ。雨雲の覆う深藍の空に光る緑色の筋が横切った。

「あ、ベイルアウト」
「え、誰」

菊地原の声に釣られて顔を上げる。やな予感、なんて思うなり、《あー悪い、一抜けだクソ!》と諏訪さんの声が聞こえた。え、え。なに。ちょっと諏訪さんふざけんな。いや、それよりも、出水が今すぐには動ける状態でない上にかつ、今まで米屋を抑えていた諏訪さんがベイルアウトしたとなれば、

《米屋が来るじゃん》
《な、結構詰んでる》
《いやいやいや、詰んでるじゃなくてさ。早く来いってば》
《これは全滅あるかもなーここまでくるとムカつきすぎて笑える》
《笑えないよ。さっさとこっち来て一人くらい殺して》
《出水、了解》

私と出水が悠長に話している間に、菊地原と荒船先輩がこちらに走り出していた。荒船先輩はともかく、菊地原に死角に入られたら瞬く間に首が吹っ飛ぶことは確実。
挟撃に合わない位置取りを徹底して、常に二人の攻撃を前方から受けるようにする。

「旋空弧月!」

二つの拡張された刃が空気を切り裂いていく。菊地原はそれを素早く回避し、荒船先輩は自ら旋空弧月を放ちこちらの斬撃を相殺する。
だめだ、こんなことしてても凌ぐだけで今に米屋が来る。その前に、

「一人確実に殺す!」

グラスホッパーで菊地原の間合いに入り込むと咄嗟に構えられたスコーピオンの上から御構い無しに彼を壁へ蹴り飛ばした。「菊地原!」と荒船先輩が叫んだ。違う、狙いはあんただよ。そこから方向転換し荒船先輩の方へと狙いを定める。どれも一転瞬のうちの出来事だ。

「っ、勢いだけで殺せると思うなよ」

無防備に自分の懐へ飛び込んで来た私を、荒船先輩は弧月で迎え撃とうとしていた。その直前でグラスホッパーを踏み、荒船先輩の頭上を私の身体が翻る。勢いだけ? 違うよ荒船先輩。
逆さになった世界の端で、こちらに走り出そうとしていた菊地原を捉えた。

「――邪魔しないで」

私は空いた左手を振って菊地原へハウンドをぶっ放して牽制する。

「馬鹿か。心臓狙いがバレバレなんだよ!」

回り込もうとした背中へ荒船先輩がシールドを張る。そこから姿勢を低くして雨の中を滑るように私へ向き直ろうとしていたが、残念、それは布石。

「な、」

私はピンボールの要領で一度荒船先輩から距離を取り隙を与えた瞬間に再び間合いを詰めた。

「欲しいのは、首!」
「――っ」

すぱん。振り切った鎌は荒船先輩の首を綺麗に吹っ飛ばした。ヒビが入るトリオン体に、私は弧月をくるりと回転させて持ち直すと肩に落ち着ける。最後に見た荒船先輩は悔しそうに表情を歪めていた。

《戦闘体活動限界 ベイルアウト》

軽い爆発音の後に空へ光の筋が飛んでいく。
湿った空気を肺に取り込む。浅くなっていた呼吸を整えると、鎌を握る無駄な力が薄れた気がした。
何とか1人撃破した。諏訪さんが《でかした!》なんて騒いでいる。遠くで爆音が聞こえるから出水がそろそろ脱出してこちらに向かってくるだろう。私はこちらに駆け出した菊地原へ向き直った。

「……よし、これで五分、」
「――と、思うじゃん?」
「――!?」

すぐ後ろで水の跳ねる音。完全に気配を読み逃していた。鋭く伸びた槍に前方へ回避を試みたが、奴の弧月は変形する。背後からの米屋の奇襲に気づいたときには重たい音を立てて弧月もろとも右腕が落ちていた。失った腕から一気にトリオンが漏れ出す。

「……コノヤロウ」
の右腕落しゃこっちの勝ち、……だな!」

米屋が間髪を入れずに槍を突き出す。足で自らの弧月の柄を蹴り上げて左手で掴むと屈んで突きをかわし、米屋の足を狙う。それでもやはり利き手を失ったのは大きい。この雨でバランスも取りにくい。彼にしてみれば少し甘くなった斬撃を避けるのは容易いことのようだったが、代わりにこちらは米屋の攻撃を受けるのに非常に分が悪かった。
直後、背後に気配。菊地原を忘れていたと慌ててスコーピオンをシールドで対応。しかしこの位置取り、……挟み討ちにされた。こうなると崩されるのは時間の問題か。

「自慢の腕力はどーしたよ。五分の状況は一瞬だったな」
「……うるっさいこの槍バカ」

私はタイミングを見計らって横へ飛んで挟撃から抜け出すと、なけなしのトリオンでハウンドを放つ。双方に散らばるキューブが二人を襲った。

、まだ死ぬなよ、もう着く》
《米屋がムカつくからメテオラよろしく》
《オーケーオーケー!》

助かった、私はそう肩から漏れ出すトリオンを押さえつける。米屋が槍を回転させてこちらへ振りかぶろうとした瞬間だった。

「メテオラ!」

背後から伸びた弾丸がまっすぐに菊地原と米屋へ飛んでいく。遅れて隣に出水が着地し、「ご注文の品を届けに参りましたー」とか笑っていた。でも二人には当たってないし出水の身体からは所々からトリオンが漏れ出している。いや、助かったのだから今は文句は言うまい。

「あらら揃っちゃったな」
「でも二人ともトリオンかなり漏れてますけど」
「トリオン漏れが流行ってんだよ。な、出水」
「いや俺のこれは耳がよしお君のせい」
「合わせろよ」

右腕がないので、左手に持つ弧月の柄で出水をどつく。そのそばで菊地原は「変なあだ名つけないでよね」と口を尖らせて、いつでも切りかかれるように消していたスコーピオンを両手に掴んだ。長々とお喋りをするつもりはないらしい。まあこちらとしても長引かないほうがありがたい。
私達は互いに視線を交わして片足を後ろに引いて構えを取った。
しばらくはジリジリとした睨み合いが続き、私達の微かな息遣いと静かに降り注ぐ雨の音が世界を支配していた。まずその均衡を崩したのは私自身だった。雨音に駆け出す音が割り込む。
できうる限り攻撃範囲の広い米屋とは距離を取って、私が狙ったのは菊地原である。彼も早い段階でそれを察し、こちらへ走り出していた。火力も機動力も失いかけている私に先手とばかりに身体全体でブレードを振り抜こうとする菊地原。彼の飛び上がった先にグラスホッパーを張ると、突然現れたジャンププレートにぶつかった菊地原の身体が進行方向から逆へ飛ばされて宙でバランスを崩した。いつだったか遊真がこんなふうに、グラスホッパーを誰かに踏ませる戦法をとっていた気がする。いやあ本当参考になるわ。
さて、ここで鎌を振り切ったところで、対応にすぐさまシールドが張られることはもちろん読んでいるし、今の私じゃシールドを砕くだけの火力はない。だから代わりに私もまた高く飛び上がると、グラスホッパーで勢いをつけた上に鎌を担いで重さを加え、持てる力全てで、菊地原に踵落としを繰り出した。「あーもう馬鹿じゃないの」菊地原が受身を取りながら呟いたのが微かに聞こえたが、私は容赦なく米屋から引き離すように彼をマンションの下へと叩き落とすことに成功した。

「流石、過激だなー」
「あんたは出水と遊んでな」

私は米屋に一瞥もくれてやらず、グラスホッパーを駆使しながらすぐさま下に落ちた菊地原の方へと向かった。彼はすぐそばの一軒家の門に突っ込んだらしく、壁はぼろぼろに崩れて微かに土煙が立っている。が、そこに既に菊地原の姿はなかった。

「あーやっぱりこうなるか」

一体どこに、なんて周りの気配を伺おうとする。しかしその直後、まるで上から真っ二つにでもする気だったのか、屋根からこちらへ飛び掛る菊地原がスコーピオンを振り下ろした。かわそうとしたものの、ブレードが右目から頬にかけて割いてゆく。

「女の子の顔になんて奴」
「脳筋がなんか言ってる」
「もっと先輩を敬いなさいって、の!」

ぶん、と鎌を振り切った。菊地原はそれを回避して間合いを詰めてきたので、太刀のぶつかり合いが続いた。こっちは腕がないしあちこちからトリオンが漏れているが斬り合いで負けるつもりはまだ毛頭ない。そうして迫り合いにもつれ込んだときだった。出し抜けに、マンションの屋上の方から大きな爆発が起こった。パラパラと建物の砕け散った残骸が雨に混ざって降ってくる。あぶな、……。
出水がメテオラを派手にぶちかましているのだろうか。

「先輩、余所見」
「ッ」

渾身の一撃と言うべきか、ここに来て最高の威力だったかもしれない。菊地原は「一本の」ブレードを叩きつけるように振り下ろした。うぬぼれだろうか、その動きは何だか私がするそれに似ている。私はその一振りを弧月の柄で受けたものの、威力に負けてバランスを崩した。背中を強く打って、菊地原が跨ぐように私の腹の横へ片膝をついていた。すぐ首元に迫るブレードを、何とか抑え続ける。

「もしかしてこのまま力で均衡を保ってればどこかでこの状況を打開できると思ってたりしないよね」
「それ、どういう、」

その瞬間、私の胸から衝撃と共に下からスコーピオンのブレードが突き抜けた。噴き出すようにトリオンが溢れ出る。警告音。トリオン供給機関が破壊された。

「『ブレードの一本』は、このためだよ」

火力で押し切るならブレード二本出しは当然だけれど、一本で攻撃を仕掛けたのはここまで読んでのモールクローのためか。やるなあ。
私のヒビ割れた視界には菊地原と、夜の色よりもっと深く暗い空、霧のような雨が映る。それから、……

「余所見しながら勝てるつもりだったわけ? 甘いよね」
「……うん、菊地原すごいすごい。……でも、」
「何」
「余所見は菊地原もだ」
「は、」

どん、とトリオンキューブが菊地原の頭を突き抜けた。もしかしたらと、菊地原に地面に叩きつけられる直前にこうなることを見越してハウンドを視線誘導で遠くに飛ばしていたのが役立ったようだ。

「な、……」
《伝達系切断 トリオン体活動限界》

菊地原の身体にもヒビが入る。すぐに状況を察したらしい菊地原が、む、と口を尖らせて私の頬をつねりあげた。こらこら、ベイルアウトするんだから変なことするんじゃない。私はされるがままに菊地原を黙って見上げていると、彼はふとその表情を曇らせた。してやられたことへの不服な顔ではなくて、哀しいような、腹を立てているような、そんな色々なものが混ざったような顔。突然どうしたんだろう、と思う私は、そんな彼の口から、こんな弱い雨の音にも掻き消されてしまいそうなくらい、微かな声で「……ほらみろ」と呟いたのが聞こえた。うん……?

「……最後の最後でムカつくなあ」
「……え、ごめんね?」
「別に。何で謝るわけ。余計ムカつく」
「ご、ごめ、……あ、ちがうちがう」
「馬鹿なんじゃないの」
「……」
「ただムカついたから言っただけで、『分かってない』わけじゃない。僕は知ってる」

菊地原の瞳は真剣だった。だけれど、ごめん、私には何の話なのか、さっぱり分からない。分かってないとは、何の話だ。

「僕はあんたの実力を見誤る馬鹿とは違う」
「……し、知ってる……よ? 何か怒ってる?」
「あんたの代わりにね。何であんたは損してるのにそんな能天気なんだよ」

どうやら彼は怒っているらしかった。しかも私の代わりに。どうしよう、本当にわけが分からないぞ。あれ、さっきまで普通にばちばち殺りあって、わー楽しいみたいな流れだったはずなのに、一体どういうこと。説明を求めようとしたとき、私と菊地原は、それぞれ致命傷を受けた場所がぱきり、と弾けて、目の前が白んだ。
次の瞬間には、身体がベッドに受け止められている。お疲れさん、とモニターから諏訪さんの声がした。曖昧な返事をして、天井を見つめる。先程の菊地原は一体何の話をしていたんだろう。もしかして任務のときに機嫌が悪かったことに関係があるのだろうか。でも、それにしたって何故あの場面で突然……。
考えても答えはでそうになかった。
私はしようがなく身体を起こすと暗い部屋の中にぼんやりと光るモニターの中では出水と米屋がまだ戦闘を繰り広げていた。米屋は片足を失っているようだったが、出水の消耗も大概だ。どっちが負けても可笑しくない。

「諏訪さんがあのタイミングでベイルアウトしなかったら……」
《あーあー悪かったよ!!》
「お詫びはじゃがりこで良いですよ」
《たかるのかよ! しょーがねえなァ何か奢ってやるから後で出水にも言っとけ!》
「あざーす」

何となくだけど、今回は負けたなと思った。


結局の話、私達は負けた。やっぱり出水が菊地原に振り回されたのが結構大きかったみたいだ。それでも米屋も出水の攻撃をあと一発食らっていたらどうなっていたかは分からない。にしても、悔しいなあ。
ブースから出ると、モニターの前には人だかりができていた。その中には風間さんや太刀川さんの姿も見えて、私達がブースから出てきたことに気づくと、太刀川さんが手を上げたのが分かった。

「あれ、風間さん隊長会議は良いんですか」
「今日は大した内容じゃなかったからな。すぐに終わって、途中から見ていた」
「お前ら面白そうなことやってんじゃねーか。俺を誘えよ」

どうやら二人は20分くらい前からここにいたらしい。風間さん達がランク戦室に来たときにはすでにかなりの人がモニターに釘付けになっていたのだとか。混成部隊のランク戦はあまり見かけないので、物珍しさと、揃っているのがなかなかの好カードだからだろう。

「風間さんが入ってくれるなら今度やるときは太刀川さんいれてあげても良いですよ」
「じゃあ風間さんも参加決定だな」

風間さんはそんな約束を太刀川さんに無理矢理取り付けられたことを迷惑そうにしていたが、たぶん風間さんもなんだかんだで参加してくれるに違いない。いつの間にか隣に並んでいた菊地原を横目で伺うと、彼もまたこちらを見ていたので、視線がかち合って何となくぎゅ、と身体に力が入るような強張るような、そんな感覚になった。多分、さっきのことが頭をちらついたからだ。

「それにしても菊地原が参加しているとは意外だな」
先輩が無理矢理」
「いや、でも菊地原を誘えって言ったの風間さんなんだよ」
「えーそうなんですか」
「お前達しばらく手合わせしてなかっただろ。良い機会だと思ったからな」

まあ、楽しかったけどね。
彼の機嫌を伺うのも兼ねて、ね、菊地原、と肩を組むと彼はいつもの調子で「別に」と愛想なく答えるだけだった。あ、これいつも通りだわ。何だよ悩んでたの馬鹿みたいじゃんか。

「つうか出水はあんま奮わなかったな」
「あー、菊地原にしてやられました」
「うちの菊地原はすごいからね。私もちょいちょいしてやられました。あと荒船先輩の狙撃結構うざかったなー」
「当たり前だ。お前を転ばせるつもりでやったからな」
「ていうか先輩達、頭弱すぎ」
「コノヤロウ調子に乗んな泣かす」
「っうわ、……痛い痛い痛いってば」

肩を組んでいた腕で菊地原の頭を引き寄せると、私はげんこつを彼の頭にぐりぐり押し当ててやった。オラごめんなさいって言えコノヤロウ。

「諏訪はもっと粘るべきだったな」
「うるせー、わーってるよ!」
「米屋がなかなか良い動きだった」
「俺は今日はいつもより調子良かったんすよね」
はもっと足場の悪さに耐える力が必要なんじゃねえの」
「何でいきなり風間さんじゃなくて太刀川さんが私の講評するんですか」
「風間さん、が可愛くねえ」
「悪かったな」
「風間さん適当」

二人のやり取りを聞きながら、私はこっそり肩を竦めていた。確かに思い返せば、これまで足場が悪いと私は転んだりバランスを崩したりすることが少なくなかったように思う。だからそこからのアクシデントに対応するところがかなり上達したことも事実なのだけれど、もう少し安定感が欲しいところだった。

「筋トレだな。一緒にやるか?」
「荒船先輩と筋トレやるとなんか無駄な筋肉までつきそう」
「無駄な筋肉なんてねえよ」
「とりあえず別の人を当たりますね」
「振られたな荒船」
「変な言い方はやめてくれ諏訪さん」

木虎あたりなんか、誘えばトレーニングに付き合ってくれそうだ。あの子たまにプールとかジムでトレーニングしてるの見かけるし。あ、でも忙しいかなー。

「何にせよ四人の連携にも関わるから、悪天候時の連携の訓練もする必要があるな」
「ハアイ」
「だがはグラスホッパーはなかなか様になってきたし、ピンボールの動きも悪くない。菊地原は最後のモールクローの使い所がなかなか良かったぞ。お前達はまだ強くなるな」
「わーほめられた」
「調子に乗らない方が良いよ。結果的に負けたんだから」
「む、」

菊地原は相変わらず減らず口!
だけど彼の言うことは確かに事実なので、口を尖らせるだけにして押し黙っていると、出し抜けに「大事なことを忘れてた」と荒船先輩が口を開いた。大事なこと?

「三人とも賭けのこと忘れんなよ」

賭けって……。
互いに顔を見合わせた私達は、首を捻らせる。何のこと? ランク戦を始める前まで記憶を巡らせると、思い当たるやり取りがポンと頭の中に弾き出されたのだった。

「―― あっ」






先輩の実力の話 終


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「俺、菊地原があんなに怒るとこ初めて見たんだけど」
「そうだな」
「ま、知ってたけどさ、やっぱ菊地原ってのこと大好きだよね。俺も大好きだけど」
「お前はに相当嫌われてるみたいだけどな」
「ねーカゲといいといい師弟で変なところ似るんだから」
のはお前が執拗に虐めるからだろ」
「虐めたつもりはないんだけどなー。でも反応が面白いよねあの子」
「いつか菊地原やカゲに噛みつかれるかもな」
「わー気をつけよー。でも実はカゲには既に何度か噛みつかれてるんだけどね……」
「それと、今日学校で見たことはには言ってやるなよ犬飼」
「……別に隠すこともないと思うよ。『このこと』に関しては俺もずっと思ってたし」
「確かにそうかもしれないが、話を聞いたところでもそれは分かってたことだし、あまりいい気分にはならないだろ」
「はいはい、分かってるよ」


多分この二人の会話はいつか書くソロポイントの話、か、ヒロインの過去の話に続きます。忘れてたらすいません。



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( 161001 )