「うわわっ」 まるで生きてるみたいに手からくにゃりとホースが逃げたと思えば、それは夏空に向かって思い切り水を吐き出した。ついでに言ってしまえばご丁寧に私にまで水をぶちまけていってくれたわけだが。あーあ、と心の中で思うのと同時に近くにいた白石が同じように声を漏らす。まあしっかりホースを持たずに加減を考えもしないで勢いよく蛇口を捻った私がいけないんだけど、ちょっと悔しい。今更蛇口を締めて、びしょびしょのジャージで顔を拭う。 「あーが水浴びしとる!ワイもーっ」 「水浴びとちゃうねんで金ちゃん」 白石が苦笑してそう答えた。金ちゃんには悪意がないとこが逆に質悪いと思う。まあ真夏だから風邪を引くことはないだろうし、ほっとけば乾くかもしれないが、流石にこのびしょ濡れのまま仕事をする気にもなれない。仕方なく部室に戻って着替えようと視線をぐるりと部室へ変えた時だった。視界に飛び込んできたのは我が自慢の彼氏であり、現在進行形でまさに水も滴る良い男状態の財前光だった。 「…あれ?」 もしかしてもしかしなくても、光に被害が及んでたりしてる…?黙ってぽたぽたと髪から水を滴らせている光からギギギ、と顔だけ白石に向けると、私が何か言う前に憐れむような顔で彼は一度だけ頷いた。…やば。 「ご、ごめん光!まさか光にまでかかってるとは、」 「気づくのおっそいわ」 「ごめ、…」 光怒ってるよ、私先輩なのに敬語じゃないし。いやでも水滴っててかっこいいのに、…とか言ったら絶対もっと睨まれるだろうなうん。言うのやめよ。 私は皆に大注目されて行動を起こし辛いこの状況にただつったままでいると光がいきなり腕を掴んで歩きだした。連れてこられたのは部室で、私を押し込む様に一緒に中に入ると、彼はタオルを投げてきた。 「そんなに怒るとは…水かけてごめんね光」 「ちゃうわあほ!」 「えええ!?」 「透けてんねん、服。先輩どんだけ漫画みたいな展開繰り広げてくれてんのや」 わしゃわしゃと頭をかく光にああ、そんなことかと渡されたタオルで髪を拭いた。別にどって事ないでしょうに。見られたのは下着じゃなくて水着だと思えば。 そこまで言うと、ジロッと私を見た彼は少し顔を赤くして、(ついでに言うと耳も赤くして)その場にしゃがみ込んだ。 「え、え、どうしたの、どっか痛いの?」 「あほ」 またあほって言われたし。口を尖らせて光が顔を上げるのを待っていると、彼は俯いたままくぐもった声で…めっちゃダサい、なんて呟いた。相当水を被ったんだなってくらい、光の髪からは雫が滴っている。私は彼の髪に触れて雫を落としてやるとガバッと顔を上げた光は悔しそうに眉間にシワを寄せた。 「…余裕ないとか、俺かっこわる」 「あ、怒ってるんじゃなくて余裕がなかったのか」 「ほんまちょっと黙っといて下さい」 「えー?」 ふふ、と口元を緩める私は光に怪訝そうな顔をされた。まだ少し照れがあるのかなんなのか彼は何も言わない。私はだって、と続けた。余裕ない光なんて、初めて見たから、なんて。 「顔を赤くした光なんて貴重過ぎるよ」 「…そんなん、貴重でもなんでも、」 「あー可愛いなあ光」 キッと睨みつけられても今はいつも以上に迫力がない。にやにやしながら彼の言葉を待っていると、光は唸るように口を開いた。 「…先輩、あとで覚えといて下さいよ」 「おーこわ」 かわいいを通り越した (もう胸キュンすぎる) ぜんっぜんリクエストに添えてない感じがもうダメすぎる。財前って私の中では書くの難しくて、うまく萌えポイントを押さえつつのまとまりある話を書くというのはもう神わざ。 というか、リクエストから2ヶ月近くたってます、すすすすすいません! (( 夜月葵様リクエスト夢||夜月葵様のみお持ち帰り可 ))110605…→ 天宮 TITLE BY 家出様 |