03.05




渡したい物があるから私の家に寄ってくれないかな。
意を決してその台詞を言ったのは、幸村君と下校している途中だった。
彼の手にはプレゼントが一つもなくて、自惚れかもしれないけれど、きっと全部受け取らなかったのだと思う。さらに幸村君は私が自分の誕生日を完全に忘れていると悟ったのか、どこか表情も暗くて、でも私を責めることもしないから余計に胸が締め付けられた。

そしてそんな私が言った台詞に予想通り幸村君はまさかと言わんばかりに目を丸くした。しかし、それから彼はゆっくり頷いたので、私はホッと胸を撫で下ろしたのだった。


そうして家についた私が彼に渡したものというのがこの焼き魚である。幸村君は焼き魚が好きなのだ。彼女だから知ってる。だけどここはケーキを買って渡すのが無難…だった、と今更に思った。それから私は誕生日を知らなかった事を幸村君に正直に謝って、それでも彼は笑ったまま私を責めはしなかった。


「ごめ、…なさい」


それでも、とうとう私はやるせなくなって再び小さく謝ると幸村君は俯く私を覗き込んだ。「何で?嬉しいよ?」彼の台詞に顔を上げて目を見開く。そんな私に微笑み返せば、幸村君はそれじゃあ戴きますと手を合わせて箸を取った。俺の好きな魚なんだと教えてくれる。もう幸村君は優し過ぎるよ。神の子なんじゃなくて神レベルだ、これは。私の心まで浄化されていく。


「それにしても焼き魚を好きなのは知ってて誕生日を知らないとはね」
「…くっ…」


いや、今度は意地悪なニュアンスが含まれていたぞ。相変わらず幸村君は楽しそうではあるが。優しさ神レベルは私の思い違いだったか。むむむ、と口を尖らせて魚をつつく彼を見つめていれば、ふいにその手を止めて、彼は私に向き直った。


「でも、いつか毎日こうやってに作ってもらったご飯が食べられる日がくるといいよね」
「…!…う、うん!」


何度も頷く私に、幸村君は珍しくおどけて見せて、それからちょっと早いプロポーズ、なんて彼は言うのだ。






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HAPPY BIRTHDAY 幸村

元ネタはメモの3月5日にあるんで見たい方はどうぞ。
というか読めば読むほど意味不明すぎるこの話。

( 120309…→ 天宮 )