「ほんまに、今日はありがとうな」 差し込んだ夕焼けの光が私の顔を照らした。開いた部室の扉からは白石がこちらを覗き込んでおり、彼は私と視線が合うと、再びありがとうと微笑む。 4月14日の今日、我がテニス部の部長である白石蔵ノ介の誕生日会が部活で開かれた。流石お笑いの学校と言おうか、誕生日会一つでもドカンと笑いをとってやろうと皆は意気込んでいて、ユウジや謙也のアイディアで、オサムちゃんの用意した大きな箱に皆で入ることにしたのだ。そんな箱どうやって入手したのかはさておき、勿論それを嫌がる人も若干いたものの、恐らく綺麗にラッピングされただろう私達の箱は部室の中に置かれ、私達は白石を待つことになった。作戦としては、部室へやって来た彼が、「なんだろう」と箱を開けたら、私達が中から勢い良く「誕生日おめでとう」なんて飛び出すという手はずだった。 終わって見て、実際にこれで白石からウケがとれたかと問われればそれは勿論答えはノーだけれど、サプライズが成功したことには変わりはないので深いところには突っ込むまい。 そのあとは皆でどんちゃん騒ぎをして、結局は白石杯テニス大会と銘打ってテニスの試合が開かれたのだった。ただのマネージャーの私はテニスができるわけではないので、皆が外で試合をしている間に散らかした部室を少し片付けようかと中へ引っ込んでいたが、私を探しに来たのか、白石が部室へやって来て、そこからは冒頭のやりとりへ繋がる。 「ほんま、ありがとう」 「いやいや、こちらこそいつも白石には助けられてるしね」 私が言って、まとめ終わったゴミ袋を隅に置いた。彼も手伝おうと手を伸ばしかけていたが、今日ばかりは彼に部長らしいことをさせたくはなかったので、私はやんわりとそれを遮る。だって今日は白石が主役だ。 なんだか照れ臭いのか、手持ち無沙汰なのが落ち着かないのか、きっと両方なのだろうが、彼は肩を竦めて苦笑してみせた。 「白石は座ってて良いよ」 「んー…ほな今日だけは甘えとこか。…なんやくすぐったいわ」 「いつも頑張りすぎなんだよ、白石は」 こんな日もたまには必要、と私は続けた。彼はいつだって白石蔵ノ介本人のことよりも、部長としてのことを優先してしまう。それが悪いことだとは言わないし、部長として本来あるべき姿なのだろうけれど、彼はあまりにそれを完璧にこなそうとするから、私はそれをたまにとても不安に思っていた。実際に軽々それをこなしてしまえる程、彼は器用な人間ではないのである。だけどそのくせ自分を押し殺したり、努力でなんとかカバーしようとして、身動きが取れない程余裕がなくなっても、それでも彼は弱音を吐かない。 「かて頑張り屋さんやろ」 「え?」 ふいに立ち上がった白石は、私の手をとると、それをそっと握った。彼の表情はとても優しいもので、ちょっとだけ照れてしまった私は視線を足元へ落ち着ける。 「こんな小さな手で、背中で、俺らの全部支えてくれて。背負ってるやん」 「…いやいや、わ、私なんて、ねえ?」 「もうアカンって、気持ちが負けて倒れそうになった時、気づいたら背中支えてくれとるんはや。自分かてふらふらなくせに、一生懸命俺ら支えて」 「ストップ」 ぎゅ、と私は白石の頬を摘まんでやると、彼は口を噤んだ。危ない、危ない。すっかり彼のペースに持って行かれるところだった。 「今日は私を褒めちぎるの禁止」 「手厳しなあ」 「今日は私じゃなくて、白石を褒めちぎる日だからね。今のお返しに普段言えないこと、全部言わせてもらいます」 彼を再び椅子に無理やり座らせると、私はその前に腰を下ろした。彼は降参だとばかりにお手上げをして、私の言葉を待つ。私は褒め言葉をいろいろと思い浮かべながら、そっと息を吸った。 「白石が部長で良かったよ」 「おん、ありがとう」 「これからもずっと私の部長でいてね」 「勿論や」 「白石最高」 「エクスタシー」 「なんでそれ」 「言わなあかんかなと思って」 「変態っぽいよ」 「そんなん言われてもこの台詞俺のアイデンティティやしな」 「…ていうか照れてよ!」 「なんでやねん」 今日はそんなことを散々皆に言われたからかすっかり慣れた様子の白石はにこりと笑って私へ言葉を返す。それがなんだか悔しくて、何かないかと唸ってから、白石を一瞥した。「ねえ、白石」 「不器用な癖にいつも一生懸命な白石が、私は大好きです」 私の言葉に、白石の声は返らなかった。彼は途端にうつむいて、よく見ると耳が赤い。ああ、ようやく照れたな、と私はこっそりほくそ笑むと、「そう言うのは反則やで」と顔を赤くしながら大真面目に言うので、私は思わず吹き出してしまった。 (いつもありがとう、大好き) ( いつもありがとう白石部長 // 140415 ) 白石部長、誕生日おめでとうございます。丸井君も間近ですね! thnks_207ベータ |