「エビフライがロケットだったら素敵だと思わない?」 「…は?」 元々先輩がおかしな人だという認識はあった。しかしまた突拍子もないことを言われたものだ。 この寒い時期、昼休みの屋上は人がおらず、一人を満喫できる絶好のポイントである。しかし今日ばかりは先客がいた。それが冒頭の台詞を言った先輩だ。彼女はさりげなく俺のそばへやってくると当たり前のように声をかけてきたものだから俺はやれやれと彼女の会話を受け入れた。 ファンタの蓋を開けながら彼女の言葉に「なんすかそれ」と俺は興味もないのに親切に聞き返してやる。隣に座っていた彼女は「だってさあ!」と手を叩いた。 「エビフライって美味しいじゃんか」 「…まあ」 「それでびゅーんて、飛べたら素敵」 「美味しいし?」 「そう、美味しいし」 お腹が空いたら空を飛びながら食べ放題だよ、なんて目を輝かせて先輩はしょうもないことを言う。本当にこの人は自分より二つも年上なのかと疑ってしまう程の幼稚さだ。そして意味がわからない。 返す言葉も見つからず、いや、見つかったとしても返す気も起こらなかっただろう、俺は黙ったまま静かにファンタに口を付けた。「あー、越前君がどうでも良さげな顔してる」 「実際にどーでも良いし…」 「君は生意気だねえ、先輩を立てるということを知らないのかい。本当に後輩?」 「先輩は本当に年上なんスか。言ってることが幼稚すぎ」 「もーああ言えばこう言う。何さ、夢があっていいじゃないか。エビフライロケット」 彼女はロケットの真似なのか、両手を伸ばして頭の上で山を作っていた。周りに人がいないから黙っているものの、これは赤の他人を装いたいレベルだ。彼女は「君もあったら嬉しいでしょ」とこちらに笑いかけた。「ファンタロケット」 「…別にロケットにしなくても良いんですけど」 そもそもどうして突然ロケットなのか。試しに問うてみればきょとんとした顔で彼女は言った。「さあ」どうやら本当にただの思いつきらしい。一度彼女の思考回路を見てみたいものである。 「ファンタもエビフライも好きッスけど、ロケットにする必要ないでしょ。もう終わりでいっスかこの話」 「えーなんでー。だってさあ、例えばエビフライロケットならきっと越前君に会いたくなった時、いつでも君のところまでひとっ飛びだよ」 「…」 「こんな楽しいお話ないよ」 何を考えているのかと思えば先輩はそんなことを考えていたのか。なんだか妙に気恥ずかしく思えて、今は被っていない帽子で顔を隠す代わりに、ぷいとそっぽを向いた。そんな俺の様子に、先輩はあれ、越前君?と首を傾げている。「まだまだだね」「え?」 「俺ならロケットなんて面倒なもの使わずに自分で会いに行くけど?」 「…」 「ていうか、先輩が呼べば俺から行ってあげないこともないけどね」 精一杯、俺はそう余裕ぶって言ってやると、先輩は顔を赤くしてしばらく固まったあと、両手で顔を隠してくぐもった声を上げた。 「…そういうことはもっと早く言って欲しいよ」 どうしてエビフライロケットが恥ずかしくなくて、今のが恥ずかしいのか、俺にはやっぱり理解できなかったけれど、不覚にも俺がそんなおかしな先輩を好きなことは確かだ。 そんな自分と、相変わらず耳まで赤くしている先輩へ、俺はもう一度だけ「まだまだだね」と笑ったのだった。 きみの街まで ( 久々のリョーマ // 141107 ) 以前に友人に頼まれて書いたものが偶然見つかったので。当時のヘタさがパレードしておりますが、これも良き思い出です。 title by LUCY28 |