『ロンドンに行ってきます』


彼女であるから電話がかかってくることなんて初めての事だった。若干驚きつつも携帯に出てみれば第一声がこれだ。いつも無口で、ましてや彼女がギャグを飛ばすなんて事は、総理大臣が大統領とまくら投げするくらいシュール且つ、有り得ないことで、一体何事かと俺は寝転がっていた身体を起こした。時刻は10時過ぎ。普段ならは寝てるはずだが。


「ほう。…なして?」


俺の質問に、は困惑しているようだった。ロンドンをチョイスしたのは特に理由はないとみた。苦笑して彼女の返答を待っていると、しばらく唸っていた電話の向こうが急に静かになった。どうやらロンドンに行く理由を思いついたらしい。「雅治、ロンドンがね、」



ロンドンが私を呼ぶので



ロンドンが。ロンドンが、呼ぶ。
いやはやいつから俺の彼女は電波になったのだろうか。そして俺にどんな返答を求めてるんだろうか。考えても分からなかったからとりあえず、行ってらっしゃいと言ってみた。うん、と素直な返事が戻ってくる。そして続けざまにお世話になりました、という言葉も。…もしかしたら何か嫌な事があったのかもしれない。は嫌な事があっても表にはあまり出さない人間で、俺にそれとなく空気で伝えてくる奴だ。こうして電話をかけてくるのは初めてのパターンだけど。


「何かあったん?」
『何で』
「いやなんとなく」


ロンドンねえ。嘘じゃな。絶対嘘。話す限りでは饒舌って以外は特に変わった様子はない。あ、電波じゃけど。やっぱり俺の思い違いか。心配して損したことを、向こうにも分かるように大きくため息を零して再びベッドに寝転がった。彼女は、ロンドンがロンドンがうるさくて俺は適当に聞き流す。なんかがこんな饒舌になるとか異常に思えた。


『ねー』
「ん」
『聞いてますか』
「ばっちり」
『あのさ、住所教えて』
「なんで」
『ロンドンで落ち着いたら手紙書くから』


エアメールですよ、やったね、なんてやはりどこかおかしいは、今度は住所を教えろと騒ぎ出した。住所住所住所住所ロンドン。意味わからん。住所とロンドンを連呼されてうるさかったから切ってやろうかと思った。その前に、雰囲気で察知したのかは切っちゃやだよと俺を止める。ホントに今日はよく喋るのう。そう思った時だった。がいきなり黙り込む。どうしたのか尋ねても返事はない。しかしながら通話中にはなっている。5分くらいそのまま固まっていると、ふいに助けてと声が漏れてきた。


「は?」
『ここどこ』
「は?」
『実はロンドンに向かって家出してたんだけど雅治が住所教えてくれないから道に迷った』


わけの分からない話である。とりあえず外でさ迷い歩いてることはわかったから表に飛び出して周辺を探そうと走り出すとはすぐに見つかった。自転車をからから引いていた彼女は、何だ雅治の家の近くか、みたいな顔をして俺の手を取る。「よし、駆け落ちしよう」大丈夫か。


「つーかお前さん家出って」
「さっき親と進路の事で喧嘩したの」
「…ほう」
「腹が立ったのでロンドンに行きがてら雅治にも会おうかなと」
「へえ」


が乗っていた自転車を俺に託すと自分は後ろ、つまり荷台に座った。俺に漕げと言うんか。仕方なく椅子が低い自転車にまたがるとのろのろとペダルを漕ぎはじめる。は軽かった。とんでもなくのろく漕いでみたが、文句は言われない。背中に頭を預けるは、雅治いくら持ってる?と口を開いた。


「んー…ひゃく…103円」
「隣町にも行けないじゃないか」
「お前さんは」
「5円」
「一人もこの町から出れんのう」


苦笑して、しかし進路は駅のまま漕ぎつづける俺。今夜は夏の割に涼しくて良かった。風がなかなかに心地好い。しばらくこうやってぶらつくのも良いかもしれない。


「のう
「何」
「ロンドンなんか行かんで」
「…」
「俺の所に来てくれればええから」


ロンドンより俺のがの事呼んどる、そう続けてちらっと後ろを見たら、が少し照れて俯いているように見えた。こんな顔久しぶりに見たから、何だか少しだけくすぐったく感じる。彼女は小さな声で俺の名前を呼んだ。


「…いきなり来てごめんね」
「会いたかったんじゃろ。仕方ない奴ぜよ」
「また来てもいいですか」


不安になったらいつでも来んしゃい、自転車を止めて振り返る俺は、そう言っての頭を撫でた。


「雅治」
「ん?」
「眠いね」
「そりゃ普段お前さんは寝てる時間じゃしな」




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はっきり言ってよく分からない話。ていうか、夏企画のリクエスト夢で書いていたつもりだったんですが、リクエストが立海マネジ番外仁王夢なのに、普通の短編書いてしまったあああああうおお!!

110824…→ 天宮
TITLE BY london