がお茶を入れてくると俺の部屋を出てからどれぐらい経っただろう。本来なら客人である彼女のすることではないのだろうが、今までに何度も我が家に迎え入れられていたためか、はすっかりこの家に溶け込んでいた。まあ、それは俺としても一向に構わなかったが、階段を上がってくる気配は伺えなかったので、一階にいる弟達に捕まってゲームにでも付き合っているのかもしれない。そう考えたら数学の課題もやる気が失せて、俺はベッドに飛び込んだ。 期末テストの点数が悪かったために、数学の課題を課されたのはつい先日のこと。が勉強を見てくれると言ったし、補習を言い渡されなかっただけ良かったと思ったものの、そう思えたの始めだけで、今では終わる気のしない分厚い紙束に向き合うことに匙を投げて、体もベッドへ放り出していた。 「…秒針の音が俺を急かしてる」 提出期限は来週なので、まだまだ時間があるとは言え、平日は学校プラス部活の朝練と午後練があれば、家に帰る頃に俺に残るのは疲労のみ。加えて休日さえ部活三昧となれば、運良く部活がないこの休日に課題をやる他ないのだ。だけど、せっかくの休みなのに!と叫び出したい気持ちだって分かってほしい。 足をばたつかせたその時秒針の音に混ざって、扉の向こうから足音を聞いた。それでも俺はベッドに張り付いたまま扉が開くのを待つ。 「ごめん、弟ズに絡まれててお茶持ってくるの遅く、…って何それ何中」 「休憩中」 「ちゃんと課題の問題解いてるようにって言ったじゃん」 「俺は今どうして世界には戦争が絶えないかについての問いを考えてるんだよ」 「お茶投げつけるぞお前」 「…。本当はどうやったら世界から数学がなくなるか考えてた」 「そういう問題じゃない」 は俺を無理やり起こすとお茶を手渡した。これを飲んだら休憩終わり、そう言っているらしい。じゃあゆっくり飲もう。ずぞぞ、と湯気の立つお茶に口をつけるとが隣に腰をかけた。二人して茶を啜っているなんてちょっとおかしな光景である。 「私だってさあ」 「…うん?」 「せっかくの休日だから外に遊びに行きたかったわけだよ」 近くの机の上に自分の湯呑みを置くと、彼女はその上に広げられた課題をぼんやりと眺めた。そうだ、俺が期末テストをもう少しだけ頑張っていれば課題なんて課されることなく、今日という休日はどこかに出かけようということになっていたのだ。隣にいる彼女の肩へ頭を預けて「ごめん」と呟くと手の中の湯呑みが危ないから、と取り上げられた。 「まあ君の頭の悪さには慣れっこだからな」 「そこは嘘でも良いから『大丈夫よブン太』とか言えよ」 「私はブン太に謝ってもらう前に勉強して欲しいでござるー」 どん、と身体を押し返されて、俺は口を尖らせた。なんて冷たい女だ。ござるーとか全然可愛くねえし。 「だーってやる気が出ねえんだもん」と再び俺はベッドへ身体を投げ出そうとしたが、彼女の口から出た真田の名前にぴたりとその動きを止めた。まるで赤也にでもなった気分だ。彼はいつもこうして牽制されていたのだと思うと少し哀れ。 の目は、真田が嫌なら今すぐにでも机に戻れと言っていたが、俺はどうしてももう少し甘やかして欲しくなった。普段はあんまりこういうことはないのだけれど、久々の休日だったからかもしれない。 「じゃあさ、何かご褒美くれたら頑張る」 「勉強するの当たり前のことなのに何故私がブン太にご褒美なんてあげる必要があるの」 「それもそうだ」 「はい、この話終わり」 「いやいやいや」 俺の提案は軽やかに交わされた。の指がトントンと動いて苛立ちを見せ始める。それでも俺は食い下がり続けると、お茶をぐいっと飲み干した彼女がこう言った。 「そんなに言うなら」 「マジでやった」 「じゃあ課題頑張ったらブン太のランニングに付き合ってあげても良いよ」 「…わーい」 お前がご褒美の内容提案すんのかーい、という言葉は素直に飲み込んで、感情の篭らない喜びの声をとりあえずは出すと、は不服そうな顔をこちらに向けた。ランニングに関しては、前々から一緒にやろうとは声をかけていたので付き合ってもらえるのは嬉しいのだけれど、俺が勉強を頑張るには嬉しさがちょっと足りない。 「もっと色気のあるご褒美が欲しいんだけど」 「しょーがないなー。じゃあ好みのグラビアアイドル教えて。雑誌買ってきてあげる」 「それこそ逆に色気ねえよ」 「何が不満だよ、最大の譲歩じゃんか」 譲るところがずれていると思うのはきっと俺だけではないはずだ。は俺のベッドの下を探りながら、いわゆるそういう雑誌を探し始めたので、俺はその腕を捕まえて全力で阻止をした。いや、この下には隠されてはいないけど、ほんと。 さっさと勉強に戻ってもらいたいは半ば自棄になっているらしく、「ストリップでもしろってか!」と怒鳴る。え、してくれんの?と期待した俺は、しねえよと一蹴された。ですよね。 「んじゃ代わりに俺が脱がすのってどうよ」 「却下します。あのさ、私帰るね」 「却下します」 「ぐえ、」 立ち上がって自分の鞄を掴みかけたの腹にすかさず手を回して、後ろに引き寄せた。相変わらず色気のない声を出して俺の前に収まった彼女はしばらく無言になってから、「ワーオ…」と零す。万事休すとでも思っているに違いない。が頭をもたげて、さらさらと下へ流れた髪の間から真っ白なうなじが見えた。シャンプーなのか、甘い匂いが鼻孔をくすぐって思わず噛み付いてしまいたくなる。 「実は今日、親は夜まで帰って来ないんだなあ、これが」 「どうりでずっと静かだと思ったぜ…」 「…」 「…」 ちらりとこちらを振り返るに合わせて顔を傾けてやると、至近距離でばちりと視線が交わる。音が聞こえるくらい息を吸い込んで、は突然下ろしていた膝を抱えると俺の前でぐるんと丸くなって見せた。なにこの状況。彼女の足にホールドを決めようと思っていた自分の足もすっかり用なしになって、だらりと放り出したままになる。 「あー、…?」 「の、かたくなる攻撃」 「…」 「の、ぼうぎょが、上がった!」 「お前いつからポケモンに」 「ふはは手が出せまい」 顔を膝に埋めたまま高笑いするそれはくぐもって少し聞こえ辛い。手が出せまい、と言う割に俺が彼女の腹に回した手をすっかり巻き込んでしまっているのだが、もしかして手が出せない、というのは文字通り手が引き抜けないということか。いやまさか。足と腹に挟まれた腕を普通に引き抜くと、俺は彼女の垂れた髪をそっと耳にかけてやる。そこにふう、と息を吹くとは小さく悲鳴を上げて呆気なく固めていた足を崩した。 「かたくなる破れたり、だろい」 「…耳はほんと勘弁してください」 「んん、今すげーイイ顔してる」 耳を抑えて顔を真っ赤にしたに腕を回して再び引き寄せると彼女の両腕をベッドに縫い止めた。ぎしし、と軋む音も、暴れる足を今度こそ押さえつけてしまえば、すぐに聞こえなくなった。 すぐ下に状況の飲み込めていない。「怖い?」俺が問うと「おっ、お前なんて怖いもんか」と威勢の良い言葉が返された。こいつって相変わらず色気がないっつうか。照れ隠しだとは分かっているけれど。 俺が顔を近づけると腕を抑えられている代わりにめいいっぱい顔を背けられた。 「何だよ、怖くないんだろい」 「いや、ちょっと正座して考えても見なさい青年よ」 「話は聞くけど正座はなし。このままなら」 「チッ」 「当たり前じゃね」 まさか自分でもこんな状況になるとは思ってもみなかったけれど、このチャンスはやすやすと逃すわけにはいかない。そもそも付き合って一年が経とうとしていて、これまでだってこういう機会は何度かあったはずなのに、いつだって、にうまいことかわされたり、邪魔が入ったり、…あとは俺が意気地なしだったり、と、色々あって、いつだって中途半端に終わらせられて不完全燃焼にも程があった。 「それで?何が言いたいんだよ」 「だから、ご褒美はあげる話はしたけど、それって課題が終わったらでしょ」 「良いぜ、前払いで」 「それ君が決めることじゃな、んっ、」 結局話なんて最後まで聞いてやらなかった。きっと聞いていたらまたいつのまにか俺の腕の中から消えていそうだったから。首筋に舌を這わすと鼻を抜けるような声が鼓膜を震わせて、一気に頭がぼんやりと熱に浮かされていくようだった。彼女が身体を震わせるたびに、彼女の匂いが強くなる。 堪らなくなっての服の中へ手を滑り込ませると、下着のホックを外して柔らかなそれに手をかけた。強く摘み上げると彼女の身体もびくつく。 「ちょ、こら、ぁっ、」 「はいはい、お説教はあと」 「んッ…だめ、だって、…ぁ」 「聞こえない」 「…だからっ、ぁッ、ん…」 だめだとさっきから口では繰り返しながら、はすっかりよがっている。潤む瞳と上気した頬は余計に俺を興奮させて顎を抑えると、口を塞いだ。容赦なく舌を滑り込ませて口内を荒らす。厭らしい水音が羞恥心を煽るどころか、ストッパーを外していったみたいだった。 「ん、んん、ふぁ…っ、ぶんたぁ…」 「ん、気持ちいい?」 「…ばか、ぁっ」 ぺろりと唇を舐めて、彼女がもう何も考えられなくなるように再び口をふさぐ。そのまま白くて柔らかな胸を弄んでいると、身を捩らせた彼女が、息も絶え絶えに首を微かに振った。それでも手は止めてやらないけど。だって口ではそう言っても、嫌だって顔してない。 「ふうん、やなの?」 「…や、…ぁあっ、」 「あ、じゃあこっち?」 お望み通り捲り上げた服からは手を抜いて、逆に彼女のスカートの中に手を這わせた。濡れたその場所をそっと撫で上げると彼女は俺の名前を甘い声で呼ぶから、それが抵抗の声だって、まるで求められてるように感じてしまう。 「なに?」 「うで、っ……はなし、て…」 「んー…どうすっかなあ」 「も、…にげない、からぁ、っ」 「まあここまで気持ちよくなったら逃げたくねえもん、な」 「んッ…」 ぐり、と濡れたそこを弾くと彼女の身体はびくりと跳ねて、腕を解放されても荒い呼吸をするのが精一杯のように胸を上下させるだけだった。本当に逃げないことが分かって足も解放すると、彼女の腕が俺の頭に回って引き寄せられた。今度は彼女から絡められる舌に俺は応えてやる。漏れる熱い吐息が思考を鈍らせていくようだ。 「は、…ちょっと…ブン太、……」 「ん、なに、」 「…こんなことして、後で、っ、覚えておきなよ」 「…何それ、何してくれんのかすげー楽しみなんだけど」 「へんたい」 「ふ、…知ってる」 濡れた布の周りを撫でるように指を押し当てると気持ち良さにきゅ、と目を瞑る彼女の頬に涙が伝う。 「…はあ、…とりあえず、いまは、んっ、…私のこと満足させないと、……ゆるさない」 「さっきは嫌って言ってたくせに」 「うるさい、」 「…」 「っだから、焦らさないで……ちゃんとさわってくれなきゃ、…やだ、」 「…何これ可愛いすぎかよ」 今度は布の中に手を滑らせて、その場所を直接触ってやる。さっきよりも何倍も卑猥な音がして、指をずぶずぶとナカに進めた。すごく熱い。 「んんッ、ぁ、こわれちゃ…っ」 「、」 もう何も考えられない。の身体も思考も全部奪ってやろうと思っていたのに、奪われていたのは自分だった。 こんなの俺には大き過ぎるご褒美だけど、きっとだからって余計に課題には集中できなくなるのだろう。そんなことどうだって良いけど。 俺は何度もの名前を呼んで、彼女の唇を奪う。 「ん、、…好き、好きだ」 今は彼女が全部自分のものになるならそれで良い。 (勉強なんて全部後回しだ) ( 性描写を信用しないでください // 150323 ) ごめんなさい。たぶんここまでのお話は初めて書きました。ごめんなさい。 |