身体測定なんて俺の中で不必要ベスト10に入るほどどうでもいいもので、俺からすればこんなもんで一喜一憂する奴らの気がしれなかった。
落ち着きのない教室に、アホかと小さく罵倒を食らわす。しかし俺の声はこの場を満たす雑音に掻き消されるように溶けて、虚しくもその一部になった。向こうで誰かが俺を呼んでいる気がするがオール無視を決め込む。さしずめ身長は伸びたかとかそんなくだらない質問だろう。
開きかけた漫画を閉じて机の上に顎を載せる。俺の冷めた視線の先は、さっきから体重が増えた減ったと騒ぐ女子共の方に向いていた。彼女達は俺に気づくと、顔を少し赤らめた。やだ丸井君に聞かれたかもなんて頬を赤く染めたが、あ大丈夫、お前が52キロなんて聞いてないから。女子共は照れ隠しなのか、薄ら笑いを俺に向けて小さく手を振って、だから俺も振り返した。 こんな事するから上げたくもねえ好感度が上がっちまうんだな。俺ってば罪な奴。そして女めんどくさい。
俺は苦し紛れに笑って、再び漫画へ目を戻しかけた、その時だった。
ばこん。情けない音と共に頭に薄い痛み。丸井様を殴るとは良い度胸じゃねえか。威嚇代わりに舌打ちしてから、相手が誰か分からぬまま、俺はそいつに非難の声を上げた。
そこにいたのはだった。威嚇に動じるはずのない彼女は、じとり、とそんな音が聞こえてきそうなぐらい、俺に軽蔑の視線を送り付けてくる。そんなには毎度の如くため息しかでない。


「何だよ」
「目つきが変態っぽい」


まるで変な目で女子を見るなとでも言いたげである。(実際そうなんだろうけど)俺はやれやれと肩をすくませるとちげえよと再び机に突っ伏した。
身体測定で騒ぐ=体力の無駄=理解不能=お菓子くれ。わかりやすく等式を立てて伝えてやれば俺を罵倒する言葉をぶつけられた。ひでえわ。「あ、遠回しに腹減った事言ったんだけど伝わった?」「直球過ぎて動揺ちゃったよ。ちなみに何もないから」けち。


「身体測定楽しいと思うんだけどなあ」
「はあ?どこら辺が」
「なんか自分の成長が分かるじゃん。身長伸びてると嬉しくない?」
「べ つ に ?」


頬杖をついて、ぐるりと彼女から顔を背ける。そんな様子には苦笑し、伸びてなかったんだあなんて俺に哀れみの湿っぽさをたっぷり含んだ言葉を投げかけた。そう、俺が身体測定が嫌いな理由はここにもあった。赤也に身長を抜かされるなんていう不測の事態が俺をここまで追い込んだ。ちくしょう。


「私は大きくなりましたけど」
「ふうん、へえ、はあ、良かったじゃん」


女って男子虐めるの好きなのかな。真剣にそう心の中でごちながら続けざまに思った事はやっぱり女めんどくさい。
さっき手を振った女達の方をぼけっと見ていると、再び視線がぶつかって彼女達が小さく悲鳴を上げた。
こっち見てるよ。嘘マジで。気が合ったりして。きゃー。

はいさようなら。お前らみたいな雌犬は願い下げです。顔赤くして色目使えば俺を落とせると思うなよ。女共。
かく言う俺の前にいるも女に分類されるんだと思うけど、所詮コイツもただうるさいだけな存在なわけだ。
妙に物悲しくなって、俺は小さく息を漏らすと、はちょっと聞いてんの?なんて口を尖らせた。


「聞いてる聞いてる」
「嘘だな。またセクハラの目をしていた」
「なんだよそれ。つか聞いてるからちょっとこっち来い」
「何で」
「良いから」


首を傾げて、椅子に座る俺へ一歩だけ足を踏み出した。俺達の間には割と距離がないので、少し恥ずかし気に、は視線を逃がす。まあどうでもいいけど。
俺が確かめてやるよ。ぷらぷらと手持ち無沙汰の彼女の手を掴んで引いた。彼女が驚いて俺の方へ視線を戻した時には、俺の手は彼女の胸に当てられていた。

女の取り柄ってこれくらい。

ざわつきがしんと静まり返ったと感じつつ、そう呟くと同時に俺の柔肌を平手が打ち付けた。いてえ、…コイツ、真田より痛い。


「しね!一回しね!いや一億回しね!」


そんな無茶な。皆の注目が集まる中、ヒステリックに叫んだは俯いて震えている。表情は見えないけど、え、もしかして泣いちゃってるとかそういう?やべ、めんどくせ。女めんどくせ。
なお俯いたまま、彼女は弱々しい力で俺を押して、当然微動だにしない俺に腹が立ったのか馬鹿と罵って教室を飛び出して行った。
その後すぐにクラスの皆から非難の声を浴びせられて俺はめちゃくちゃ可哀相だった。何であんな大それた事を!ってアイツが成長した成長したってうるさいから俺が確認してやったまでだろい。ああ確かにでかかったぞ。
そんな俺の意見が通るはずもなく、結局、追い掛けてくれば?的な仁王の無責任な台詞のせいで皆がそうだそうだと俺を教室から追い出した。
仕方なしに廊下へ出た俺はすぐにを見つける。彼女は近くの階段でうずくまっていた。


「おーい」
「…」
「…。おーいー」
「話かけないで変態」


ぐす、と鼻を啜る音を聞いて教室に帰りたくなった。それでもそうする事ができないのは承知である。だからうんざりした雰囲気を悟られぬよう、俺はそっとの肩に触れたが、その手は弾かれた。そしてそれを合図にするかのように、彼女は再び逃げ出そうと勢いよく立ち上がった。背を向けて階段に足をかけたの腕を俺は咄嗟に掴んだ。


「っ…触らないでって言ったでしょ!」
「な、」


初めて俺の方に向けられた泣き顔に俺は目を見開いた。しばし硬直。は俺に、無理矢理にでも教室に連れ戻されると思っていたのだろう。予想に反してただ自分を見つめるだけの俺に、彼女は泣き止んで、表情はぐしゃぐしゃに歪んでいたのが、拍子抜けしたようなマヌケなそれに変わっていた。
え、まる、い…?明らかに先程と違う俺の様子に困惑の色を醸しながら、彼女は俺の名前を呼んだ。それに弾かれるが如く、俺は体を揺らす。


「…まる、」
「…お前、その顔誘ってんの、ぶくっ


言い終わる前に殴られて、整っていた彼女の顔は再び怒りと悲しみに染められていた。もう知らない!振りほどかれた腕を俺は再び繋ぎとめるわけでもなく、ただ呆然と、見えなくなる彼女の背中を凝視していた。

赤みを帯びた頬に潤む瞳。
先程の彼女の顔が脳裏に焼き付いて離れない。

………ええええマジかよ。どうした俺。
僅かに速度を増していた心臓に手を当てて首を傾げる。

どきどきどき、…おおおお何だこれ。




少年よ、
それがというものです

(とりあえず追い掛けるか、)(今度は自分の意志で)


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遅くなりましてすいません…!
変態丸井のリクエストでしたが…え、変態? ただ冷めてるブン太のなだけな気がしてなりません笑
未来さんの文章力には敵いませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

相互リンクありがとうございました!
これからもシクヨロお願いします^^
(( 未来様相互記念 || 未来様のみお持ち帰り可 ))120122…→ 天宮
TITLE BY postman様