「あーぢー」
「うるさい」
「いてっ」


アンタの頭見てる方が暑苦しいわ。丸井の頭を持っていたメガホンで叩くと恨めしげに視線を持ち上げた彼の瞳があたしを捕らえた。正直そんな顔されても困るっつーか、残念ながらあたしにはこの暑さはどうにもできないし、だからと言って丸井の文句に一言一言頷いてやる事もできない。暑いから。
てかあたしよりも太陽を睨みつけるべきなんじゃないだろうかと、あたしは頭の回らない彼のために代わりに太陽を睨みつけることにした。まぶ、まぶし。
やっぱり8月が終り秋の匂いをどことなく孕む9月がやってきたとはいえ、残暑は厳しいものである。本格的に秋が始まるのはまだまだの様だと、真夏同然の太陽の勢いに額の汗を拭った。
というか今更ながらこの暑い中、文化祭を開く必要性を感じられないのだがいかがなものだろう。しかも、クラスや部活の出し物があるというのに、それ以外に、部活単位で仕事を与えるなんて。


「うああああちいいい!何でテニス部が駐車場誘導係なんだよ!」
「…丸井先輩うるさいッス」
「ただでさえ暑いんじゃからそんな暑苦しい声出さんで欲しいのう」
「うるせえ!つか真田達はどうした!」
「あたしらには『我慢』が足りないからってさっき仕事押し付けていなくなったわよ」


駐車場は午前中にはいっぱいになり、午後には満車の看板を掲げるだけとなったこの仕事はもはや拷問にしかならない。
それにしてもまさかあたしが三馬鹿のお守りをさせられるとは思わなかった。確かにこの三人だけに任せたらサボるに決まってるだろうけど、だからってあたしにコイツらを押し付けなくても良くないか。数時間前のあたしに仕事を押し付けた幸村の表情を思い出して苦笑する。確かに我慢は足りないけどこんなやり方ひど過ぎる。


「俺的予定だと今頃はアイス食ってるはずなのに」
「そんなの俺だってそッスよー」


アイスアイスアイスアイスと口から欲望がだだ漏れの丸井に蹴りを食らわすと再び恨めしげな視線を向けられ、そんな私はじゃあお前が買って来いとあたしの財布を放り投げた。勿論、100円しか入ってないから変な風に使われても大した損害はない。


「はあ?何で俺が。てか一人分しか金入ってねえし!」
「当たり前でしょ。あたしがアンタらの分を払うとでも?」
「鬼畜じゃ」
「鬼畜ッスねーだからモテないんスよ」
「おい赤也もっぺん言ってみろ」


メガホンを構えるとへらへらと愛想笑いを浮かべて、赤也は冗談ですってーなんて嘘くさい言葉を並べる。後輩の癖にいちいちムカつくんだよお前は。
言い合いを繰り広げ始めたあたしと赤也を横目に、仁王は日陰でもはや仕事の放棄ときて、丸井はというと、あたしからメガホンを奪うと、あたし達をすぱーんと天才的早業で叩いて見せた。


「もう黙れ。こうなったらじゃんけんしかねえだろい!負けた奴が金出してダッシュで買って来い!」
「おーし!負けないかんねーほら仁王も来て来て」
「一発勝負!じゃーんけーん、…」




「なあージャッカルいねえ?ジャッカル」
「いい加減黙れよお前」


じゃんけんに見事に敗れたあたしと丸井は面倒な事にアイスの買い出しに狩り出されてしまった。人混みの中を縫うように進むあたしは、後ろでさっきから、ジャッカルを捕獲してアイスの買い出しを押し付けようぜ的な事をほざいてやがる丸井にため息を零す。


「丸井のせいだかんね」
「はあ?やめろよ責任転嫁とか」
「転嫁なんてしてません元々君のせいでした」


やっとアイスの屋台にたどり着くと、バニラ4つと丸井から二人分のお金を巻き上げながら言った。アイスを受け取ると、とりあえず自分の分にかじりつく。早々に戻らないと仁王達のアイスが溶けるからと丸井に声をかけるが早いか否や、彼は赤也の分のアイスにも手を出していて、あたしはただただ唖然とするばかりだった。そんなあたしの手にしている仁王の分も奪われ、いよいよ抗議の声を上げようとした矢先、彼はニヤリと口角を上げた。


「サボろうぜ」
「は?でも仕事は」
「そんなもんアイツらがいんだろい」


真田に怒られるから嫌だと抵抗するも、丸井はあたしをひょいと担ぐと、先ほどのだらけぐらいからは想像できないパワフルさで走りはじめた。生徒も一般の客も何事かと大注目で、ああ、死にたい。
しかも運の悪い事に人混みの中で幸村と真田を見つけばっちり目が合う始末。


「ちょ丸井、幸村達がっ」
「知らね。戻る気なんてねえからな」
「はああ!?てかアンタ、どこ行くのよ!」
「涼しいとこに決まってんだろい?」


そんで連れてこられた場所は室内プールで、塩素の匂いが鼻を掠めたかと思えば、丸井の掛け声と共に次の瞬間にはあたしはプールに投げ出されていた。って、えええええ!?
ばっしゃーんとプールに沈むあたし。丸井の高らかな笑いが水の中からも聞こえて殺意が沸いた。


「はなに、みずが、いたい」
「ふは、大丈夫かよ


ぷかりと水面から顔を出して呟くあたしに、でも気持ちいだろい?なんて丸井はニカリと笑う。ふざけんな。びっしょびしょじゃねえか。しかしながらあたしの心情なんてまるで無視の丸井は自分までプールに飛び込んできた。あたしは水しぶきに目を細めて、顔を拭う。そして文句を言おうとした。でもその前に丸井があたしを抱きしめた。ぎゅうっと。


「あのさ、めちゃくちゃいきなりなんだけど」
「はあ、」
「…その、俺、の事マジで好き」
「ああ、うん」
「………」
「……」
「えええそんだけかよ!」
「いや、ほんとにいきなりだなと。いきなり過ぎてキャパシティが」


されるがままにあたしは固まっていたけど、暫くすると丸井はあたしを解放し、雫を滴らせながら真っすぐにこちらを見た。告りたくなったから告ったんだよわりいかとでも言いたげな表情だ。


「何かさ、じゃんけん負けたけど、せっかく二人になれたわけだし、神様がくれたチャンスなんじゃね?とか思ったわけよ」
「ポジティブシンキング」


制服が濡れて肌が透けてる。いつもは可愛いが売りの丸井もこういう時は色気がただならないが、所詮それだけだ。あたしはそれ以上の感情が抱けない。だって丸井の事好きじゃないし。友達としても、親友とか言うほどでもない。どちらかというと、あたし、柳とかとつるんでるしね。


「なあ付き合って」
「え?無理」
「即答!この俺がお願いしてんのに!?」
「丸井ってナルシストだよね」
「有り得ねえよお前。こうなったら早く向こうまで泳げた方の言うことを聞くっつーことで!」
「え、ちょ」
「よーいどん!」


ばっしゃばっしゃと何を必死に泳いでいるんだろう。そして何が「こうなったら」なのだろう。そう言いたくなるくらい勢いよく泳ぎはじめた丸井に、あたしはただため息しかでないのである。




選択肢はイエスかグッドか




「はい、俺の勝ち!付き合えよな!返事はイエスorグッド!」
「お前ってほんとめんどくさい奴だよな」




−−−−−−→
ヒロインはマジでブン太の事なんとも思ってません。うっぜえ男ーみたいな目で見てます。
多分ブン太に振り向く事はないでしょう。
でもブン太男前だから、ヒロインが恋で悩んでたら助けてあげると思う。「俺にしとくなら今のうちだぜ」「…丸井だけは無理」「……仕方ねえなキューピッドになってやるよ!でも……お前があいつと付き合ったらもうぜってえ好きだなんて言ってやらねえからな」「…丸井、」
みたいなね!うま\^p^/
111002…→ 天宮
TITLE BY london