かたん、かたんと電車が揺れる。時刻はもう6時を回っていて、電車の窓からはオレンジの光が差し込んでいた。車内にはあまり人がいなくて、私はだいぶゆったりした気持ちで電車に揺られていた。私の隣にいるブン太は疲れているのか、うとうとと少し眠そうにしている。肩使って良いよ、と言ってみると彼はどちらともつかない返事を返した後、とんと頭を預けてきた。本人に言ったら絶対怒られるだろうし、無理に起きてようとするから言わないが何だか可愛らしくて、私はつい口元を緩める。しかしそれと共に妙な切なさが込み上げてきて、隣で眠るブン太を見つめた。 「いつまで一緒にいられるんだろうね」 考えたって仕方がない事だとは分かっていた。でも、ブン太は私にとって大きな存在過ぎて、それは恋愛に関してだけではなかった。ブン太はどこまでも強さを求めていた。そして彼の持つ全ての感情が、魅力だった。素敵な生き方をしてる人だと思っていた。だからこそ自分の醜さが浮き彫りになる。惨めに見えた。それでブン太といるのが嫌になるわけでは全然ないけれど、辛くないと言ったら嘘になる。そしていつかこんな自分がブン太に嫌われてしまうんじゃないかって、不安になった。 「ばーか」 寝ていたと思っていたブン太が口を開いた。まさか起きているなんて、と数秒前の自分の言葉に後悔する。あんな事言うから起きちまったなんて口を尖らせる彼は預けていた頭を上げるとどこか遠くを見るように少し視線を上げた。ああ、またこの表情。 こういう後、彼は決まって言うのだ。まるで確定された未来が見えているような、すぐに私を安心させてしまう言葉を。きっと、彼は言う。 「俺には分かるぜ?」 私が不安そうにしていればブン太は必ずそう言った。にっと私を見たブン太に私は微笑み返す。 「10年後も20年後もお前と一緒にいる未来、俺には見える」 「…そっか」 「だから余計な事心配すんなよ」 いつもはやんちゃな癖に、こんな時には彼と私の立場が逆転する。ブン太は少しだけ乱暴に、私の頭をくしゃりと撫でた。私が落ち込むとブン太はここぞとばかりに兄貴性分を発揮する。本人は自覚がないんだろうけど、そんな時、ブン太の隣はいつも以上に安心ができた。 「本当にそうなると、良いな」 「ばか、なるんだよ。絶対」 きゅっと手を握られて、ああこういうのが幸せって言うんだろうなって、私はブン太の言葉に頷く。 さっきよりも濃いオレンジの光が車内に差し込んでいた。窓から見える、遠くの遠くのオレンジを眺めると、私にも彼の言う未来が見える気がした。 私には贅沢過ぎる未来だと思う。 でもこの先、10年後も20年後も彼の見えた『未来』が有り得るなら、 ああ、そんな未来を、私は望む。 何度でも言うよ (その未来が、お前に見えるまで) −−−−−−→ ボカロを聴いていたら丸井君に優しくされる話(というかひたすら幸せなそうな話)が書きたくて勢いで書きました。 オレンジな感じとか、雰囲気は聴いていた曲を参考にしてます。 110604…→ 天宮 TITLE BY 家出様 |