にゃーんと足元で鳴き声が聞こえた。
昇降口で上履きに履きかえようとしていた俺はふと下を見ると、そこにいた猫が身を擦り寄せてくる。そういえば数日前から野良猫がいるとかなんとか話題が上がっていた事を思い出しながら屈んで猫の頭を撫でてやった。
担任から餌はあげるなと言われていたが外は雨だし、何か可哀相だからついさっき貰ったクッキーを砕いて上げてみた。
猫ってクッキー食えるのか分かんなかったけどとりあえず食えるようだったから安心した俺は立ち上がって教室に急ぐ事にした。といっても、雨で部活が中止になって、置き傘を教室に取りに行くだけだけど。

雨はどんどん酷くなっているようだった。傘を取った俺は廊下をかけていると、ふと隣の教室に誰かいることに気づいて顔を覗かせる。


「あ、さんじゃん」


俺の声に窓側に座っていたさんは顔を上げる。え…と誰?彼女の第一声だった。そりゃそうなるよな。俺が一方的に知ってるだけだし。だけど、俺らテニス部って結構有名だからいくらさんでも知ってると思ったんだけど。


「俺丸井ブン太。テニス部なんだけど、かなり有名なんだぜ?知らねえ?」
「あー…はい」


若干引かれてるのはすぐに分かった。まあ初対面でそんな事言われたら引くよな。
俺は彼女の席に近づくと案の定、彼女の机の上には勉強道具が広げられていて、俺はつい苦笑した。
というのも俺が彼女を知っている理由というのが、が良いとこのお嬢様で学年首席をとり続けている事で有名だからなんだけど。


「やっぱり勉強か」
「…ごめんなさい」
「な、何で謝んだよ」


俺に向けられた表情ですぐに意味が分かったけど。こう頭良い奴が勉強してると基本的に色んな奴に嫌がられるって事だな。まあ嫉みってやつ?分かる分かる。俺らもテニスの事でよく嫌味言われたし。


「良いじゃん、別に」


勉強したいならすればいい。そう言ってやると、さんは少しホッとしたように笑った。
それにしても、嫌味言われたくないなら家で勉強すりゃ良いのに。俺は試しに家に帰らないのか尋ねてみると、彼女は口ごもって俺から目を逸らした瞬間、思い切り椅子から立ち上がって後ずさりした。


「まままま丸井君それ!」
「は?」
「あ、し、ああ足元!」
「足元?」


指された足元を見るとそこにはさっきの野良猫がいて、俺が気づくとすりすりと近づいてきたから俺は猫を抱き上げた。これ?


「猫がどうした?」
「…」
「…おーい」
「…」
「…」
「…」
「ほら」
「ひぃいっ」


猫をずいっと彼女に近づけると泣きそうな顔をしながら俺から離れていく。はーん、猫怖いんだ。めっずらしー。
さんは何で猫なんか連れて来てるんだと言わんばかりの目を向けてきたからさっきクッキーあげて懐かれたんじゃねー?なんて答える。


「せ、先生に餌はあげるなって言われませんでした!?」
「いや、だって何か可哀相だったし」
「だ、だからって…」
「ほれ」
「ひぃっ」
さんおもしれー」


近づけられた猫を避けて後ろの壁に思い切り頭をぶつけたさんをけらけら笑っていると、丸井君!なんて唇を噛み締めて彼女は俺を見た。


「あ、もしかして学校で勉強してたのって、猫に会うかもしれなくて怖かったからとか?」
「…」
「図星か」
「ち、違いますから!」
「ほれ」
「ひいっ」


ほんと面白いコイツ。
ぺたんと座り込んだにちょっとやり過ぎたかと反省していると、猫が俺の手からぴょんと飛び降りてさんの足の上に乗っかったから彼女は硬直した。ウケる。


「ははっさんの方が良いって」
「ま、まる、い、くん、たた、たすけ…」


ギギギ、と音が鳴りそうなくらいぎこちなく俺を見上げたさんを苦笑して猫を再び抱き上げようとした時だった。急にでかい音を立てて雷が落ちて、つい肩をびくつかせるとそれと同時に何かに飛びつかれて俺はどたーんと後ろに倒れた。


「…ってぇ…頭打ったし」
「ごごごごめんなさい…!」


頭を押さえながら目を開くとさんは俺にしがみついていて、思わずふきだした。


「何か猫じゃないのが飛びついてきた」
「ね、猫ならあっちに逃げていきました…」
「あ、そ」
「…」
「…」


どきますっなんて立ち上がろうとしたさんの腕を掴むとそれを止めた。彼女は不思議そうな顔で俺を見つめる。あー顔近いな。何か照れるし。


「あの、丸井く」
「もうちょっと」
「…はい?」


今いい思いしてんだからもうちょっとくらい良いだろぃ。


「てかお前怖いものありすぎ」
「…すいません」
「いや、だから何で謝んだよ」


苦笑した俺は、とりあえずさんの背中をぽんぽん叩いてやると子供じゃないですからっと頬を膨らませてずいっと顔を近づけてきたから頭に手を回して自分の方に引き寄せた。
触れたのはほんの一瞬て、唇が離れると目をしばたたかせたさんは一気に顔を赤くした。


「ちょっ…ななな何してるんですかあああ!!」
「何か、近かったから」
「近かったからって…!」
「まあそれ以上近づいたりしたらキスすっから」
「…!」


目を見開いた彼女はじゃあもうどきますからと俺からどこうとする。しかしその瞬間再び雷が鳴り響き俺にしがみつく事となった。



「あーあそんなキスしてほしいんだ」




近距離恋愛
(好きに、なったかも)

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顔も性格も良いお嬢様とブン太のお話のリクエストをいただきましたが、話の中からはお嬢様と言うことしか分からないというリクエストまるで無視な感じ。すいません。
とにかく敬語にすればどんなヒロインかすべてが伝わると思っているアホんだらです。

でも書くのは楽しかったっす!リクエストありがとうございました。

(( 秋様リクエスト夢||秋様のみお持ち帰り可 ))110424…→ 天宮
TITLE BY 家出様 星屑のワルツ