その場所はまるで外から切り離されてるかのように静かだった。
部活で擦りむいた足を引きずりながら保健室へ入り込んだ俺は、保健委員でそこに残っていたを見つける。彼女は窓から外の部活を見ていたらしくて、俺に気づくと、また?と口を開いた。というのも俺が放課後の保健室の常連であるからなんだけど。


「座って」
「ん、わりぃ」


こんな日まで怪我するなんてついてない。ぼろっちぃ椅子に腰掛けた俺は擦りむいた足を見せると、は痛そうだね、なんて苦笑してみせた。そりゃ痛い。でも格好がつかないからヘーキだと答えておく。
彼女は3年間保健委員を続けていているだけあって、手当の手際は良かった。
だからと言って消毒が染みないわけなくて、思わず眉をしかめた俺に、彼女は我慢しなさいと、わざと傷口を叩く。毎度やられるが正直マジで痛い。


「おま、もうちょい優しくできねえの?」
「私程優しい人はなかなかいないよ」
「自分で言うなし」
「あははっ」


同じ保健委員のは今みたいな時は、痛かった?ごめんね、なんて謝ってくれんのに。ときたら軟弱だのなんだのけなしてくるだけだ。


を見習えよ」
「…」
「…って?」
「…ごめん、痛かった?」


不意にはふわりと悲しげに微笑んだから俺は目を見開いた。え、は…?
そんな俺の様子に、は丸井が見習えって言ったのにその反応何さー、なんて口を尖らせる。急に見たことない表情されたら戸惑ったんだ。さっきの表情はぐらぐらと俺の感情を揺さぶっていた。何だよあの顔。
少しだけ妙な緊張感を覚えた俺はの方を見ることが出来ず、足元を見つめる。すると彼女はふと窓の方を見た。俺は耳だけ澄ませていたが、部活動の声やら音やらが妙に遠くに聞こえる。


「頑張りすぎなんだよ、丸井は」


小さく呟かれた言葉だったが、俺の耳にははっきりと届いていた。
顔を上げてその意味を問おうとする。しかしそれを拒むように、彼女は顔を背けた。
これで完了、そう言って包帯を巻き終えたらしいは足から手を離す。俺はとっさにその手を掴んでいた。


「…別に、頑張り過ぎては、ねえよ」
「…。そっか」


それなら良いよ。彼女が発したそれは大して感情が込められてない言葉に感じた。多分『良い』なんて微塵も思ってねーんだと思う。
はもう部活に行きな、なんて再び窓に視線を移して、そんな彼女に俺はあのさ、と口を開いた。


「話してる暇なんてあるの?」
「まあ聞けよ」
「真田に怒られるよ?」
「聞けって」


ぐい、とこちらを向かせると、は俺から目を逸らした。何で逸らすんだと責める。彼女は近いからなんて言ったが大して照れていないようだった。


「…俺さ、」
「部活はホント良いの?」
「良いんだって」
「でもさあ、」
「あーだから!」
「私も忙しいしー、保健委員の日誌とか書かな、っ」


壁に押し付けて口を塞いでやった。するならホントは告白してからって決めてたのに。
しまったー…!と心の中で後悔する反面、表では平然としてみせる。いいから、聞け。そこまで言うと彼女はやっと黙り込んだ。


「最近、いや、大分前から。俺すっげーもやもやしてて」
「…」
「それ、お前が関係してるっぽいんだよな」
「何の責任転嫁ですか」
「るせ。黙って聞け」


不服そうに口を尖らせているなんて気にしないで俺は、見てるうちに気づいたんだと続ける。何を、という質問はされなかった。


「…俺、お前の事好きなんだと思う」


は一瞬まっすぐに俺を見つめ返してきた。そして、少しも驚いている様子がない。あ、もしかしてバレてたとか。はずー。
あー、俺砕けんのかな。むなしい。にふうんと返された俺は更にどんな反応すれば良いかまったく分かんないまま、数分が過ぎた。(と思う)無駄な足掻きと分かっていながら、俺は口を開いた。


「お前俺の事好きだろぃ」


失敗。言わなきゃ良かったとか今更後悔、してももう遅い。どうせなら俺の事好きにさせてやるの方がまだかっこよかった。こんなの自意識過剰野郎みたいな。あー…死にてえ。
は案の定、は?なんて顔をしてから自意識過剰だねと言ってのけた。だよな、そうなるよな。


「自意識過剰じゃねえから」


でももう引き下がれねーし。俺マジダサい。死ぬほどダサい。これフラれたらぜってえ仁王にバレるだろ?そんでアイツ赤也に言うだろ?そしたら、…そしたらしばらく俺アイツらにからかわれまくるじゃん。うわー。


「実は今日俺の誕生日だったりして」
「…ふうん知らなかった。ああ、どうりで廊下に女子の群れがいたわけだ」


そうだよな。俺の誕生日なんか知らねえよなあ。
それでそれが?と言わんばかりの目を向けられた俺は一瞬口ごもるが、この際思い切りダサく恥ずかしくフラれてやろうじゃん、とか思って、必死に余裕ぶる。けど、結構辛い。うん、泣く。


「知らなかった?嘘つけ」
「…」
「ホントは知ってる癖に」


あああ俺今なら死ねる。つかもし俺みたいな台詞吐いてる奴がいたらフルボッコにしてる。かなりナルシストじゃね。大分イタいだろぃ。
俺が小さくため息を漏らした時だった。


「知ってるよ」


は?
無茶苦茶ナチュラルに発っせられた言葉に、俺は顔を上げて彼女を見つめた。


「丸井の誕生日が4月20日の、今日な事くらい、知ってる」
「…は、」


とんでもなく堂々とそう言い張るから俺は自分の耳を疑う他なかった。は固まる俺の首の後ろに手を回して思い切り自分の方に引き寄せる。本日二回目のキスっつーやつに俺の思考回路はもうショートした。いやその前にもう壊れてたけど。


は、実は丸井ブン太が好きだったりして」




うわ、え、夢?
ハッピーエンドは終わらない
(ちょ、もっかい言ってみ?)(絶対やだ)

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当日に更新できて良かった。
生まれてきてくれてありがとうブン太!
(( ブン太 HAPPY BIRTHDAY DREAM))110420…→ 天宮
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