「ぎゃああああ出たああああ!」 がたーんどたーんと俺の目の前で机をいくつも巻き込みながらかなり派手に倒れた自分の彼女に俺は、唖然。「出た」なんて人を幽霊みたいに。ていうか俺は最初からいたんですけど。ていうかパンツ見えてるんですけど。レースですねいいと思います。彼女は開きっぱなしの携帯を片手に俺の視線が自分のスカートの方を向いている事に気づいて慌ててそれを正した。不覚!はカッコつけて言ったのかもしんねえけど見ている俺としては割と恥ずかしかった。 そもそもどうしてこんな事になっているのかは俺も全然分からない。とりあえず状況把握のために俺の頭は数時間前に遡っていた。 ろくでなしの純愛 立海には、いや立海じゃなくても、もはや長期休暇に入ると必ずある補習。俺こと切原赤也は当然の如くそれにお呼ばれしていたわけで、だが参加した所でこの俺が真面目に勉強するわけがない事など担任だって理解していたハズだ。課題と向き合う気なんてさらさらない俺は、周りが課題に勤しむ中、外で部活をしている先輩達をただひたすら恨めし気に見つめていた。まあそんなわけで、いつの間にか俺以外の補習対象者は皆いなくなっていた。もう終わったのか早いなーなんて思わず感心してしまったが、他人事じゃないのは百も承知だ。このままだと部活に顔を出した俺が、開口一番に真田副部長から、いや、もしかしたら3強揃い踏みで言われる事は容易に想像がついたので、俺は渋々シャーペンを握りしめたわけなんだが、3秒もしないうちに眠りに落ちたのは多分俺の中でのニューレコードである。 そんなこんなで目を覚ました俺の目の前にいたのが、自分の彼女であるだった。彼女は机に突っ伏していた俺に携帯を向けていたけど、目を覚ました俺とバッチリ目が合うと、もうそこからは冒頭の調子である。 「…あの、何してんの?」 「赤也が生き返ってびっくりしただけ」 「勝手に殺すな」 ていうか何でいんの。つーかその携帯は?聞きたい事だらけである。はしばらく口ごもっていたけれど、とりあえず彼女がここにいる理由は、部活の帰り、偶然会った幸村部長に、俺の様子を見てくるように頼まれたからだという事が分かった。んで、その携帯は。 未だに床に座り込んでいるの手から、携帯を取り上げるとそこに写っているものに視線を落とす。教室の天井だった。何がしたいんだよお前は。 「ち、違うって!ホントは赤也の寝がっ…」 「…」 「…」 「…俺のねが?」 「…ねが…ねガッツ!」 「何それ」 無理矢理すぎるぜと言う俺に、はしまったーみたいな顔をして、視線を外に逃がした。いやあ今日はいい天気だね、なんて全然ごまかせてねえからな。だいたい曇ってっぞ。冷静にツッコんでやれば、終いには吹けない口笛まで吹きやがって、俺は思わずため息を漏らした。彼女が言いかけた言葉は分かっている。どうせ俺の寝顔を撮るとかそんな話だろう。 正直言って寝顔を写真に撮られるってめちゃくちゃ嫌じゃね。だってデータ残るんだぜ?なんか待ち受けにしようとするし。先輩達に見られたら絶対からかわれる。 「テニスしてる姿はいくらでも撮っていいっつてんじゃん」 「えー撮りすぎても価値が下がるし」 「…」 「でも赤也の寝顔、プライスレス」 「ちょっと黙れ」 無駄にキリリとした顔に無性に腹が立った。が、俺の心を知ってか知らずか、は、貴重な表情が撮りたいんだなんて喚き続ける。いや、愛されてるのは分かるんだけどさ、なんか変な方向いてる気ぃすんだよな。俺だけ? 先生が来たら色々面倒だから、倒れた机を並べ直しつつ彼女の言い分を聞き流す。ギブミー寝顔とかホントに黙って。 「つーか逆に聞くけど、何でそんなに写真撮りたいわけ」 「え、カッコイイ姿ずっと見てられるから?」 「…恥ずかしい事言うなよな」 「えええ赤也が言わせたんじゃん」 口を尖らせる彼女に、やれやれと肩を竦めた俺は、それじゃあと呟いた。そんな俺には、俺がやっと撮らせてくれる気になったと思ったのか、表情をぱあっと明るくさせる。しかし俺は彼女を壁に追い詰めて、逃げられないように横に手をついた。こんなの今までした事なかったからもちろんはテンパるわけで。 「え、ちょ赤也、何どうしたの!」 「こんなに至近距離で顔見た事なかったろ。ずっと見てたいならこの距離でどうぞごゆっくり」 「…っ」 しばらくは硬直したみたいに動かなかったけど、ハッと我に返ったように肩を揺らせば、もう大丈夫デスなんて俺の肩を押し返した。でもこのまま引き下がるのも何だか男が廃る気がして、俺はホントに一瞬、彼女の口を塞ぐ。 「ぴぎゃああああ!」 「…もっと女らしい声は出せねえのかよ」 「ファーストキスを赤也に奪われた…!」 「いや、本望だろ」 「なんてナルシストなの!でも好き!」 何だコイツ。よく分かんなくなってきた。多分照れ隠しにめちゃくちゃ喋ってるんだと思う。顔真っ赤だし、耳まで赤いし。 とりあえず俺は自分の携帯を取り出して彼女の貴重な照れた顔をおさめる。カシャリ、機械っぽい音に反応して顔を上げた。わなわな震え始めたと思えば、ん、余計赤くなってね? 「の照れ顔プライスレスってな」 「なななな…!」 「はい保存ー待ち受けー」 「っ赤也あああああ!」 なかなか良い顔のが撮れたもんである。の顔を待ち受けにするのも悪くないなんて思いながら彼女から逃げるべく俺は走り出した。陸上部の彼女は足がめちゃくちゃ早えけど、テニス部もナメちゃ困るぜ。 そんでちなみにこれに懲りて寝顔を撮るのをやめてくれる事を、から逃げつつも俺は密かに祈るのだった。 (赤也補習はどうしたのだ!)(げ!真田副部長…っ) −−−−−−→ メリークリスマス!! 111225…→ 天宮 TITLE BY LUCY28様 |