図書室の窓際の席で私は顔を伏せる。外から放課後のそれほど温かくない光が差し込み、…まぁそれでも私は快適な放課後を過ごしていた。最近放課後は毎日ここで惰眠を貪っている。(前は教室でだったんだけど、わけあって図書室に変えた)
家では弟が友達を連れ込んで騒いでいるからゆっくり寝ていられないのだ。アイツがいる学校とて同じなんだけど。


やっぱここにおったんやな」
「うわ来よった…」


わざとらしくため息をつくけど、そんな事微塵も気にしてないように私の隣に座るのは隣のクラスの白石蔵ノ介だった。
コイツは何かと私に絡んでくる奴でいわばストーカーだ。
(放課後なのにすぐに現れたということは今日は部活がないのだろう。それか自由参加のオサムの講座かなんかの日)


「最近よくここおるよな。前は教室やったのに」
「誰かさんが人の睡眠を妨害してきたからわざわざ移動したんやっちゅーの」
「誰やそんな事する奴。俺が取っ捕まえてきたるで」


「お前やお前」私が白石にそう言ういつも通りのやり取りに思わず苦笑。でも白石は後ろを振り返ってカウンターでかったるそうに図書委員の仕事をしている(…のかは定かではないが)財前の方を見た。


「睡眠を妨害するっちゃーんはお前か、財前」
「いや、だから白石やゆーてるやん」


ぺしっと手で軽く相手の肩を叩く古臭いツッコミをしてから私は「またやってしもた…」と机に額をゴツリとぶつけた。白石とはなるべく関わらないようにって決めとんのに。財前は相変わらずめんどくさそうに私達のやり取りを見ているだけで何の助け舟も出してこんし。


「つか何で追っかけてくんねん。キモいわ」
「うわ、めっちゃ傷付くねんけど」
「勝手に傷付けアホ」


ケッと頬杖をついて外を見ていると、白石はいつも言っている台詞をいつも通り今日も躊躇わずに言ってのけた。


「俺はが好きなだけや」


そう言う時だけはいつも真剣そのもので、ちょっとだけキュンときてしまうのは絶対言わない。し、言いたくない。悔しい。


「それもう聞き飽きた」
「じゃあ俺の人生のパートナーになってください」
「いやいやいや、意味全然ちゃうからそれ。付き合う通り越してるやろ」
「ダメなん?」
「ダメなん?って、ダメとかダメじゃないっていう話ちゃうやろが」


コイツに付き纏われてから完璧にツッコミに磨きがかかった気がする。だってこの前オサムに褒められたし。(嬉しくない)


「とりあえず住むなら一軒家がええな。マンションやなくて」
「勝手に話進めんなや。誰も返事しとらんがな」
「あぁ、そやな。やっぱガーデニングできた方が楽しいもんな」
「君誰と話しとんの?ねぇ」


誰もそんな事言ってないのに頭の中の誰かと話を進めているアホ馬鹿白石はニヤニヤと何だか楽しそうだ。


「あの白石君?私君のプロポーズ受けとらんからね。ねぇ聞いとる?」
は、犬飼いたいか」
「どないしよう財前、日本語が通じん」


何、犬て。一言も言っとらんし、まず恐ろしいほど話が全然噛み合ってない。財前はイヤホンをつけたままでも私の声が聞こえているらしく、カウンターで何かの本を読みながら口を開いた。


「俺に振らんといて下さい。とりあえず毒手語でも語りかけてみたらどうです?」
「無理に決まってるやろ。適当にあしらうにも程があるぞ」


私は仕方なく寝る直前に読んでいた分厚い本を手にして白石の頭を軽く(あくまで軽く)殴ると、白石はハッと、まるで今起きましたーみたいな顔をして私を見つめた。


「今俺めっちゃ良い夢見てた」
「君何がしたいの?私に殺されたい?」
「俺はを完璧に惚れさせたいねん」
「はい退場ー」


なんでやねん!と、珍しく私にツッコんできた白石に少し驚いていると、白石は「俺は諦めへん。を惚れさせるため無駄なくパーフェクトに攻めてくで」なんて言った。ごめん、変態発言にしか聞こえへんよ。
「そんでいつか名前で呼んでもらうんや」とまだ言い続けている白石に私は飽きれ顔で、本を片手に立ち上がった。
帰んのか?なんて言う白石の言葉には返答せずに一度ため息をついた。


「…さてさて無駄なく完璧に攻めていきたい白石君。君には一つだけ欠点があんねんけど」
「?何や?」


私は苦笑するともとあった位置に本棚を戻し、くるりと白石の方に向き直った。
人差し指を立てて自重気味に微笑む。


「私が既に君に惚れているということに気づいてへんという事やで」
「…え?」


椅子の横に置いておいた鞄を手に取りヒラヒラと手を振る。「ばいばい財前」と言うとやっと財前は本から顔を上げて会釈を返した。





「んで、また明日、やね『蔵ノ介』」







恋にバイブルはないのさ!
(え?今、俺の名前呼んだよな!?)(…白石部長、うざいっすわ)





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変態白石でした。誰が何と言おうと変態白石です。難しかった。でも楽しかった。
リクエストありがとうございました^^
101230
>>Kaho Amamiya

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