食堂は案の定、生徒の姿はほとんどなくて、昼時とは比べ物にならないくらいにがらんとしていた。授業が早く終わって慌てて来たって、人気の定食の食券は無くなっているくらいなのに、今更俺は一体何をしているんだか。結局、『最後の一人』とやらの居場所を聞かずに真田は行ってしまったし、彼の勢いに押されて、つい食堂にやって来た自分が虚しく思えた。 そんな時、よく見知った後ろ姿が視界の端に映って、「ジャッカル」と、俺は気づけばその名前を呼んでいた。 「お、ようやく来たな」 隅のテーブルにゆったり腰をかけていた彼は顔だけこちらに向けて、ふっと微笑んだ。俺が腹を空かせることはもしかしたら、いや、きっと柳の計算のうちで、だからこそ真田が居場所を知らせなかったのかもしれない。…そんな気はしていたけれど、 「お前が、…最後の一人?」 「まあ、一先ずは最後だな」 「その一先ずっての、どう言う、」 「とりあえず、座れよ」 腹減ってるんだろ。そうジャッカルが俺を自分の前の席に促したので、言われた通りに彼の前に回ると、そこには手付かずの定食がまるまるあって、それがしかも食堂で一番人気の、俺もまだ2回くらいしか食べたことないそれだった。まさか食わずに俺のことを待っていたのかとか、ていうかそれにしたって意味わかんないけど、とにかくプレートとジャッカルを交互に見ると、彼は俺の反応に笑った。すす、とプレートが俺の方へ寄せられる。そこでジャッカルのさっきの言葉の意味がきちんと分かった。 「…『腹減ってるんだろ』ってそういうことかよっつう…」 「多分少し冷めちまったかもしれないけど」 「うん、…今なら全然気にしない俺」 「なんつー顔してんだよブン太、らしくないな」 「…だってこれ鬼盛りのメガ盛りじゃん…」 「どうせ特盛くらいじゃ足りないだろ」 「うん…」 俺らしくないひょろひょろした力ない返答に、ジャッカルは少し気味悪がっていたけれど、そんなことは気にならないくらいに俺は猛烈に感動していた。空腹は色んな意味で最高のスパイスだと再認識である。どうやらテニス部の皆が食堂のおばさんに頼み込んで、定食を一人分取り置きしておいてくれたらしい。きちんとしたプレゼントは貰っていないし、朝はおめでとうの言葉もないのかと、思っていたくらいなのに、今年の誕生日はいつもよりも何倍も特別に感じるのはどうしてだろう。 いただきますといつもより丁寧に手を合わせて箸をつけた今日の昼飯は泣きたくなるくらい美味しく感じた。 「赤也がそれ、羨ましがってたぜ」 「あいつまだこれ食ったことないらしいしな」 「もしブン太がこなかったら自分にくれって騒いでたんだよ」 小さなから揚げをぷすりとさして、いるかとジャッカルに差し出すと、俺が人に食べ物を分けたことに彼はひどく面食らったようで、しばらくぽかんとしていたのだけれど「良いからお前が食えって」なんて苦笑していた。それなら遠慮なく食べるけど。 箸をもくもくと進める中、ジャッカルは不意に例の封筒を出した。しかしそれは今回は二枚あって、片方の封筒の裏にはの名前が記されている。 「…何これ」 「こっちは帰りのホームルームが終わったら開けて良いって」 「ふうん…。やっぱの仕組んだことなんだなこれ」 「ああ、思いついたのはあいつだ」 まだこの封筒がどう言う意味なのか分からないけど、きっと誕生日に関することなのだと思う。バイキングのチケットとか入ってたら大喜びなんだけどなあ、と戯けていって見せれば、彼は「…喜んでもらえるかは、分からねえけど」と、曖昧に笑うのだった。 「俺等のエゴって言ったらそれまでだしな」 「…うん?」 「なんてな、考えても仕方ねえよな」 「今俺に言われても良くわかんねえけど」 「はは、悪い悪い」 白米を口にかきこむと、それをプレートに載せて、俺は時刻を確認。授業開始五分前だ。カウンターにいるおばさん達も、プレートを持って来るようにこちらに声をかけてきたので、俺は慌ててそれを返すと、行こうとジャッカルを促した。彼は頷いて立ち上がる。「…ああ、大事なこと忘れてたぜ」そうして隣に並んだ彼はとんと握りこぶしを俺の肩にぶつけると、小さく笑った。 「誕生日おめでとうブン太」 back |
( 丸井先輩誕生日カウントダウン2015 // 150412~ ) ななつ、 皆の人気者な君。 |