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「遅い!」

柳には、教室に戻るようにと言われたので、俺はてっきりこの宝探しゲームもこれで終わりなのだろうと、そう思っていた。さて、それではこの封筒たちは一体どうすれば良いのか、と。もう開けてしまって良いのだろうか。しかし柳からの答えは微笑みで返されるだけで、納得のいくようなそれは一つももらうことはなかった。
そういうわけで、ひとまず柳に言われた通り、俺はB組の教室があるフロアをのんびり歩いていた。しかし突然びりびりと空気を震わせるようなそんな声が俺を貫いたのである。思わず膨らまそうとしていたガムを飲み込みそうになりながら、視線を声の方へとやった。

「…真田?」
「遅いぞブン太」

B組の前にいたのは真田だった。彼は赤也を叱る時によくするような仁王立ちをして、どうやら俺を待ち構えていたらしい。周りの生徒も、真田の放つ異様なオーラにうろたえている程だ。
彼も、この宝探しに関係するのか、はたまた、ただ俺に本当に私的な用事があっただけなのか。「駆け足!」なんて続けざまに言われてしまえば、そんなことを深く考える暇もなく部活の時の反射で、「お、おー!」とか答えて、周りの視線を背中に受けつつそそくさと真田の元へ。これは廊下を走っていることにはならないのだろうかという疑問は今は捨て置こう。(早歩きだからきっとセーフ)

「えーと…、悪い。色々校内をうろついてたもんだから。何か用か」
「ああ、お前に渡すものがあったのだ」

渡すもの?
そう言われて頭によぎるのは、今までに受け取った白い封筒達で、それらを取り出しながら、まさかこれかと試しに問うて見ると、彼は突然ハッとして少し決まりが悪そうに咳払いをした。そうして間を置いてから、一度だけ頷き返される。まるで、不意に何か不都合なことに気づいたかのように。彼にしては妙に煮え切らない。

「なに、どうしたの」
「…すまない、本来ならばお前との接触は偶然を装う手筈だったのだが、普段の癖で待ち構えていたことがすっかり露見してしまったな」
「まさか今の無意識かよ」

一体俺は何をやらかしたのだろうと内心ヒヤヒヤしていたというのに。彼はらしくなくどこか気を落とした面持ちで「こういうものは慣れない」と白い封筒を俺に差し出した。俺はその様子にすっかり気が抜けてしまって、ふっと笑いを零す。まあそもそも、真田が失敗をする前から今回のことが仕組まれていることにはすでに気づいていたので、彼が落ち込むことはない。相変わらず不器用な奴、とこっそり思いながら俺は封筒を受け取った。

「羽目を外すのは得意ではないが、だがお前を祝いたいという気持ちは本物だ。…誕生日、おめでとう」
「おう、分かってるって。サンキュ」

きっと、部活の繋がりがなければ、俺は真田のようなタイプに深く関わっていくことはなかったように思う。馬鹿真面目で煩くて融通が効かない、だけど情に熱くてすげーいい奴。普通のやつなら恥ずかしがってなかなか出ないような言葉も、こいつは当たり前のように口に出してのける。真田のこういう真っ直ぐ胸に落ちてくるような言葉が、俺は結構好きだ。
もはや束のように集まった封筒を一瞥してから、まだ開けちゃダメなんだよな、と問うと、真田は、ああと答えた。

「次で、一先ずは終わりだ」
「一先ずって、」
「ああ、あちこちへ振り回してすまなかった」

それはまあ、構わないのだが、一先ずとはどう言う意味なのだろう。ふと俺は携帯で時刻を確認すると、気づけば昼休みの終わる15分前になっていた。一先ず、というのは、恐らくもう休み時間も終わるから、ということなのだろう。それにしても、初めはを探すのにここまで時間を食うとは思っていなかったし、見つからなければすぐに諦めて教室へ引き返すつもりだったので、俺は昼飯もすっかり食いはぐれてしまっていた。今の時間では食堂だって、購買だって全部良いものは売り切れてしまっているだろう。食べれないと分かると途端に忘れていた空腹が蘇るようで、ぐう、と腹が唸った。するとそんな俺の背中を、真田がトンと、押し出したのだ。
次の目的地に早く行けと、そういうことなのか。振り返れば、彼は

「腹が空いたのなら食堂にでも行けば良いだろう」

なんて、至極簡単に言ってのけた。こんな遅い時間に食堂に行くのは無駄足になることくらい、普段食堂を使わない人間であっても分かることだ。俺は半ば呆れながら、次の『封筒』を貰ってまだ時間があったらなあと、答えると、真田はもう一度、今度はもっと強く俺を押した。

「早く行け」
「いや、だってよ、」
「もたもたしていると、昼休みが終わるぞ」



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( 丸井先輩誕生日カウントダウン2015 // 150412~ )
むっつ、
良いかっこしいな君。