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「丸井君ではないですか」

職員室に何かご用でも?赤也程ではないにしろ、もはや演技だと分かりきったその台詞は、少しわざとらしさを感じる。職員室の前に待ち構えていたのは、柳生で、彼は風紀委員で使うらしいファイルを抱えて職員室に入ろうとしているところであった。「良いよそういうの」俺は肩をすくめた。それに柳生は俺の台詞の意味を悟ったらしい。苦笑する彼の表情は幾分か本物らしいものだ。

「…柳君の言う通りでしたね」
「赤也でボロが出るって?次何かやるならせめてあいつ最後に回した方が良いぜ?」

まあ、赤也がどうこうの前に、幸村君と仁王に渡された封筒でなんとなく察しはついていたけれど。彼は俺の言葉に曖昧に笑ってから、それではこれをと、あの白い封筒を取り出した。「開けて良いと言われるまでは開けないでください」と言うお約束の言葉も添えて。

「それから」
「誕生日おめでと、だろい?お前は今朝もわざわざ教室に来て言ってくれたじゃん」
「ええ。もう聞き飽きてしまったかもしれませんが、それでも改めて『お誕生日おめでとうございます』」
「んん、サンキュ」

封筒はこれで4つ。何が入っているのか、全く見当がつかないのだけれど、俺は初めこそを探しに出たわけだったが、いつの間にか寄り道ばかりして、こうしてこの封筒と、おめでとうの言葉をたくさんもらって――まるでどこか宝探しをしているような、そんな気分だ。

「今日で丸井君は私達の中のお兄さんになるわけですね」
「はは、お兄さんって言うのとはちょっと違うだろ」
「いいえ、そんなことはありませんよ」

ちゃんと、仲間想いのいいお兄さんです。
たった数ヶ月の差のはずなのに、まるでそこに別の何かがあるような言い方をするものだから、俺は大袈裟に思って彼の言葉を笑い飛ばした。けれど、柳生はそれに首を振って神妙な顔をする。急に照れ臭く思われて、続くはずの言葉が喉の奥に消えていった。

「確かに丸井君は少々桑原君に頼りすぎているところもありますが、」
「…お、おう」
「実は後輩や弟想いの良いお兄さんであることは、私だけでなく皆知っています」
「や、やめろって」

普段は、髪が赤いだの、ネクタイがだらしないだのと注意の言葉をもらうことの方が多いのに、突然誉め殺しなんてなかなか食えないやつだ。俺は手の甲で緩みそうになる口元を隠して、「そんで、次はどこに行くの?」と半ばごまかすように問えば、彼は天井を指して言った。どうやら次は上の階らしい。

「図書室に、お願いします」

つまり、いるのはおそらく柳あたりであろう。分かったと頷く俺は、一番初めの目的だった、には最後には会えるのかと言う疑問をふと口にすると、「丸井君が会うのは、貴方を特に大切に想う部員は皆ですよ」とそれだけ言って笑ったので、どうにも今日の柳生には敵わないなと、俺は少し熱くなった頬を扇いだ。

「あー、それじゃあ、図書室行ってきます」
「はい。それから丸井君」
「…なに?」
「ネクタイがだらしないですよ」
「…本当、敵わねえなあ」

そうら来た。風紀委員は俺の誕生日でも関係ないらしい。苦笑を零すと、今日だけは、と俺はだらしなく垂れたネクタイをきゅっと上に締めて歩き出したのだった。


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( 丸井先輩誕生日カウントダウン2015 // 150412~ )
よっつ、
甘いもの好きな君。