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忘れ物だったら、わざわざ昼休みに行かずとも放課後に行けばいいのに、と言う俺の考えは当然の意見のように思う。そもそも今日は部活がない日だから、誰かが部室に入ることはないだろうし、盗まれるかもしれないなんて心配は以ての外だ。せめて時間のある放課後に取りに行けば良いものを。そう思いながらわざわざ4階からグラウンドに出てきた俺は昼休みの朗らかな空気の中で、サッカーやら野球やらで外を駆け回っている生徒達を一瞥しながら、グラウンドの隅に位置するテニス部の部室までやってくると、扉の前にはぼんやりラケッティングをしている赤也の姿を見つけた。あいつは俺に気づくと、「あ、せんぱーい」なんてラケットを振る。
幸村君や仁王に同じような封筒を受け取ったあたりでなんとなく察していたけど、こんな風に立て続けにテニス部のレギュラーに鉢合うなんてやはり仕組まれているようだ。

「偶然すね」
「ふうんこれ偶然なんだ」
「…あー、えっと、…丸井先輩は何しにここに来たんスか」
を探しに来たんだよ」
「あ、ああ!先輩!俺見ましたよ!丸井先輩が来る少し前に忘れもん取りに来て」

へらへら、と笑うその笑顔はどこかぎこちなく、喋り方だって演技くさい。先程からあちこちに連れまわされてるけれど、本当に彼女はここに来たのだろうか。
きっと次に俺の行くべきところを知っているのだろう赤也をじとりと見てから、「の行き先知ってるんだろい」と半ば確信的に問えば、「しっ、職員室に行きましたよ」と答えた。どうやら部室の鍵を返しにという理由らしい。

「じゃあお前はどうしてこんなところにいんだよ。部室閉まってたらもういる意味ないだろい」
「…自主練ッスよ」
「制服で?」
「…」

そもそもたかだかラケッティングをするために部室に来る必要などないだろう。幸村君や仁王と違って、あちらこちらにボロが出るこいつの話を崩すのはとても簡単だ。赤也はしばらく俺から目を逸らして、無言を決め込んでいたのだけれど、おもむろにポケットを探ると、そこから端が折れた白い封筒を出して、俺に押し付けた。

「…折れてる」
「…それはすんません」
「良いけどよ、これって何なの」

俺はあの二人に貰った封筒を出すと、赤也は手でおおげさに口を塞いだ。うっかり喋ってしまいそうになるからだろうか。「い、言いませよ!」と俺のそばから飛び退く。俺はあっちこっち歩かされて、せっかく外に出てきたと思ったら、今度は職員室へ行くためにまた校舎に戻らなければならないというのに、理由を聞かせてもらえないというのはちょっと納得がいかない。

「んなこと言われても、…」
「…」
「あ、あの、じゃあ、俺英語の宿題やんないとなんで!」

宿題とか嘘くさ。
赤也は、そうして早口に適当な理由を並べて走り出した。「あああそれから誕生日おめでとうッスーー!」一体彼は誰に言っているつもりなのか、相変わらずこちらに背中を向けて、なおかつどんどん遠ざかりながらそんなことを言うものだから俺は気が抜けてしまった。もはや追いかける気もしないので、ふと何気なく、よれた封筒を太陽に透かす。どうせこれも「開けていいよ」と言われるまで開けてはならないのだろう。ずっと何も入っていないと思っていたその中には(とはいえ、実際そんなことはないのだろうが)小さな四角い紙のような何かが入っているのが分かった。

「…何だこれ」


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( 丸井先輩誕生日カウントダウン2015 // 150412~ )
みっつ、
君の身長。