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視聴覚室は4階の一番端にあった。そこは滅多に授業で使うことがないので、いつもは電気が消えて鍵もかかっているのだけれど、幸村君が言った通りというのか、そこには明かりがついて鍵も開いていた。
まさか何かのサプライズ、と期待したものの、耳をそばだてても中から声はちっとも聞こえないどころか人の気配すらない。渡された封筒を一瞥してからそろりと扉を開くと、一番前の席に誰かが横になっているのが見えた。

「って、お前かよ」
「…どうしたんじゃブン太」

椅子二つ分使って横になっていた仁王は、イヤホンをだらだらつけて何やら音楽を聴きながら昼休みを満喫していたらしい。俺がここにくるのは珍しいというか、そもそも授業以外で来たのは初めてなので、俺の登場に怪訝そうな表情をした彼は、イヤホンを外して上半身だけ起き上がった。それからあくびを一つ。…こいつ。

「珍しいのう」
「…いや、を探してて」
?」
「幸村君がここにいるはずだっつうから来たんだけど」
「そういや、俺がここに来た時、ダンボール抱えてたん見たぜよ」

仁王はそう言って教室の隅に積んである教材の詰められたダンボールを顎でしゃくった。ここにいないのならしようがないので、彼女を探すのはもう諦めようかとも思ったのだが、封筒の謎もあるので、一応どこに行ったか分かるかと問うと、彼はんー、と唸ってから、「部室?」と答えた。

「はあ、何で」
「知らん。ただ、何か忘れたから急いで取りに行かんと、みたいなこと言っとったからのう」
「ふうん」
「気になるなら行ってみたらどうじゃ」
「あー…まあ、そうする」

俺は頷いて封筒をブレザーのポケットに突っ込んだ。そうして再び仁王はイヤホンをつけたのだが、俺に背を向けて「あーそれと」なんて何処からか彼も白い封筒を取り出したのだ。ひらひらと見せつけるように弄んだあと、彼はそれを俺に差し出した。「俺もこんなん持っとったわ」なんて。

「まだ開けたらいかんぜよ」
「…開けて良いって言われるまで?」
「分かっとるならええぜよ」

俺は二つ目の封筒をじっと眺めたけれど、やっぱりそれはあまりに薄く、何かが入っているようには思えなかった。この封筒が何なのかは分からないが、一応礼を言ってそれを一枚目と重ねると、俺はひとまず部室に向かうことにした。どうせ彼に封筒の意味を聞いたところで本当のことは話してくれないのだろうから。だったらきっと何かをたくらんでいるらしい彼女を探し出して話を聞くしかあるまい。じゃあな、なんて雑に手を振りながら視聴覚室を後にしようとした時だった。

「あと、おめでとさん」
「え」
「誕生日」
「…」
「はよ行きんしゃい」
「…仁王」

相変わらず背を向けたままで、随分そっけなく言われたおめでとうは、やけに胸にすとんと落ちてきて、俺はポケットからガムをひとつ取り出すと仁王に押し付けて足早に視聴覚室を後にした。「俺ってば本当寛大すぎだろい」とか適当なことを言いながら。祝われる日のはずなのに、誰かに何かを返したくなるなんて。

「…何か変な誕生日だ」



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( 丸井先輩誕生日カウントダウン2015 // 150412~ )
ふたつ、
その赤い髪。