好き?ああ、好きだよ。あはは、私も青は好き。
ピンク?うーん、好きでも嫌いでもないかな。
仁王の今日のゴム、色が少し違う。赤っぽいけどピンクに近い。
だからピンクは嫌いになれない。
でも、ゴムの色がまた戻れば、嫌いになると、思う。
窓の外を見ると、鉛色の空が広がっていて。
重苦しい雰囲気が漂っていた。
今、目の前で先生が、受動態?なんて詰まらない英語の文法の説明をしていた。
ノートに写す。聞く。ノートに写す。の繰り返し。
さらに、プリントを前から後ろに回す。プリントの問題を解く。
終わった。
そして、もうすぐ授業も終わる。
ずっと前の、斜めに行ったところにある、仁王の席。
今はいない。自分では無意味だと思っていても、見つめてしまう。
渇いた魚を潤す、その為には水が必要。
そういう意味では仁王は必要不可欠な存在である。
終わりを告げるチャイムが鳴った。
なんの終わりって、もちろん今世紀最大に詰まらない授業の終わり。
そして今世紀最大に退屈な休み時間の幕開けでもある。
無性に屋上に行きたい、そんな風に思うようになったのはいつ頃からだろうか。
席を立ち、これまた無意味だと思いながら、学食へ向かう。
きっと仁王はいる。
その道中、丸井に会った。
「お前、青、好き?」
「あはは、私も青は好きだよ」
でも、ピンクは、好きとも、嫌いとも、言えない。
一瞬、不思議そうにこちらを見たがすぐに変わって、そっか。なんて言った。
丸井は、自分のポケットに手を突っ込んで、グーのまま、こちらにその手を向けた。
これ、やるよって言って。そのまま私のポケットに突っ込んだ。
「じゃあな」
見るからに重そうなパワーリストを付けた両腕の内の、右手を挙げ、別れを告げた。
しかし、その手はすぐにだらんと下がり、元々ポケットに入れていたのだろう。
定位置に戻った。
そんな彼を見送って、また、学食へ続く道を進んだ。
歩くこと約6分(丸井との会話時間は除外)。
普通は学食まで3分もかからないが、今はその倍の時間がかかった。渇いて死にそう。
あたりは煩い連中で埋めつくされていた。
その中に1人。唯一、渇きを潤せる人物。仁王。
ふらふらと、彼が座っている場所へと足が動いた。
「渇いた」
焼肉定食を食べながらこちらに視線を向けた。
飲んでいたであろう、紙パックの、『飲むヨーグルト』。それを差し出した。
「喉が渇いたなら飲みんしゃい、おまん、ヨーグルトは好きじゃけぇ」
まるで見透かしたように言う。
ほれって言うから、紙パックを手に取り、既に刺さっているストローを口に入れた。
中のヨーグルトが上がってくると同時にストローを噛んだ。別に噛み癖はないけど。
ヨーグルト独特の乳酸飲料っぽい、喉に付着するアレ。
「青は好き?」
「好いとうよ」
無理矢理紙パックを奪い取られた。
が、ストローを噛んだせいか、仁王は少し顔をしかめた。
「何が好きだって?」
「何じゃスルーされるかと思っとった」
焼肉定食の最後の一口を勿体なさそうに、口に頬張った。
そういえば今日は屋上に持ち込まないんだな。
チラと窓の外を見た。……ああ、そうか。天気が悪い。
仁王は、食べ終えた定食のトレイを律義に片付けに行っていた。
テーブルに残っているのは飲みかけの、ストローが潰れた『飲むヨーグルト』。
手に取ろうとしたが、やめた。
「が、好いとう」
背後から、コッソリと。
誰も聞いてやしないのに、耳打ちで。
どうやら片付け終わったようだ。
反対側の仁王が座っていた席付近にちょこんとある紙パックを横着して、
私の背後から手を伸ばして取ろうとしている。
私が、好き?
そんなの仁王にとっての社交辞令でしかない。
彼には正式なお付き合い(か、どうかは知らないが)をしている、
彼女という人が存在する。
仁王自身、それを重く受け止めていない。
「これ、あげるよ」
紙パックの代わりに、渡した。
先程丸井から無理矢理渡された、いつもの赤いゴム。
仁王はそれを少し驚いた顔をして受け取った。
手が届いたのか、紙パックも無事、仁王の元へ。
「"彼女"から」
そう言うと、ククッと喉を鳴らして笑った。決して良い笑いではなく。
バレてたんか、なんて独り言。話は読めないけど。
「仁王、私は、青もピンクも嫌いだな」
「赤は好きじゃなか?」
今までしていたピンクのゴムを手首に付け、代りにいつもの赤いゴムで綺麗に髪を結う。
好き?ああ、好きだよ。あはは、私も青は好き。
ピンク?うーん、好きでも嫌いでもないかな。
仁王の今日のゴム、色が少し違う。赤っぽいけどピンクに近い。
だからピンクは嫌いになれない。
でも、ゴムの色がまた戻れば、嫌いになると、思う。
何故かって?仁王の彼女が好きな色だから。
あぁ、でもゴムの色がまた元に戻ったから、ピンクは大嫌い。
その代わり赤が憎たらしい程に好き。憎たらしい程に。
抗うな、受け入れろ
(あぁ、全て失くしてしまいたい)
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天宮様からのリクエスト作品でございます。
ご本人様のみお持ち帰り可能です。
リクエストは仁王の切甘でしたが・・・、うちの仁王はどうですか?
天宮様はブン太がお好きということで、友情出演させてます。笑
あまりリクエストに沿えていなくてすみません・・・
ここまで読んでくださりありがとうございました。
‘10/03/11 ui
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こんな素敵なお話をありがとうございました!
私はなかなか仁王が書けない子なので感激です。
さらにブン太が好きだと言ったら、ブン太を友情出演させて頂いて…
やませ様は優しいお方です!
本当にありがとうございました!!
やませ うい様のサイト<a href=" http://nicr2-ui.kakoku.net/dream-001/n-001/index.html">2Cr様</a>は、
甘いお話から切ないお話まで揃っていて、とっても素敵なサイト様です!
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