新学期、学校に着くとそこには女の子の集団。好奇心で覗いて見れば、集団の中には跡部君がいて、いつもの光景に私はその場を離れた。離れようとした。
「っひ!」
がっちりと腕を掴まれて、恐る恐る振り返れば、そこには恐ろしい表情で引き攣った笑みを見せる跡部様の姿。(お、お、怒ってらっしゃる!)振り解こうにも、全然腕が上がらない。それどころか掴まれた腕に力が増していく。誰かに助けを求めようにも、女の子の鋭い視線が突き刺さるだけで誰も助けようとはしてくれない。
「お前…見て見ぬ振りをするとはいい度胸じゃねぇの…アーン?」
「い、いえ、ワタクシ、ちょっと用事がありますので、腕をお離しくださりませんでしょうか…」
「テメェに用事なんてもんはねぇ、いいから来い」
「用事がないってどういうっ…痛!引っ張んないで!」
跡部景吾とは一年の時から同じクラスであり、とある時からこうして突っ掛かって来るようになった。それは一時期私が生徒会の書記代理をしていたからだろう。強引な跡部君の意見に反論したことから始まったのだ。出来ることならあの頃に戻って反論しないでおきたい。
「あー跡部君!新年の挨拶まだだったよね!」
「今年もたっぷりと可愛がってやる」
「それ挨拶じゃないよね!?ていうか、どこ行くの!」
「いいから付いて来な」
もはや引っ張られてるので付いて行かされてるんだけれど…という突っ込みは止めて、ひたすら引っ張られるがままにしていれば、生徒会室に入れられた。
「ッチ…新年早々、騒がしい連中だ」
「あの…なんで私連れて来られたんでしょうか…」
「連中を混乱させるためだ」
「ちょっと!勘違いでもされたらどうすんのよ!」
「そん時はそん時だ」
「何その甘い考え!」
これからの学校生活どうしてくれんのよ、と頭を抱えてしゃがみ込めば、跡部はもう一度舌打ちをして私の腕を掴んでソファに座らせた。
「今日はここにいろ」
「はあ?始業式はどうすんのよ」
「俺が校長に言っておく。つーか、俺もここにいるがな」
「もう跡部君…自由奔放すぎて付いてけないよ私」
「うるせぇ、慣れろ。そもそもお前が見て見ぬ振りをするのが悪い」
「助ける仲でもないでしょうに」
何を言ってるの跡部君、と言えばその顔は一瞬にして歪み「そうだな」と言ってそれっきり黙ってしまった。なんだかとても悪いことを言った気分になってしまい、「ごめん」と謝った。
「何で謝んだよ」
「いや…助ける仲だったとしても、あれは助けられないと思うし…」
「別に助けなんざ必要ねぇ」
「…そっか」
「そういや、今年からもう高校生だな」
「え?」
唐突な発言に顔を上げると、跡部君はソファにふんぞり返って座り口端を上げて笑った。
「そうなりゃ、以前にも増して今日みたいなものが多くなるわけだ」
「すごい自信だね」
「事実だ」
「そうだけど」
「そこでお前に提案がある。今日から俺の女になれ」
は?と目を見開くと、跡部君は「拒否権は一切与えない」と言って目を逸らした。与えないって…それじゃあ、もう彼女になること決定事項?反論する間もなく、跡部君は話し始めた。
「安心しろ、お前が他の女に手を出されようものなら俺が守ってやる」
「ちょ、ちょっと待って」
「お前のわがままならいくらでも聞いてやる」
「跡部く、」
「だから…俺の女になれ、優美」
ジッと見つめられて、あまりの真剣な眼差しに目眩がしそうだ。ドキドキと高鳴る胸を抑えながら「ご、ごめん」と言えば跡部君は笑った。
「拒否権はねぇと最初に言ったはずだ」
「っ…そ、それは卑怯だよ!」
「うるせぇ、俺様の指示は絶対だ」
「指示!?そもそも跡部君私のこと好きなの!?」
「ああ好きだ」
「っ…!」
何も言い返せなくなったのは、あの跡部景吾が真っ赤な耳で目を逸らして片手で顔を覆ったことと、私の心臓が爆発しそうなくらいに高鳴ってしまったことだ。二人して赤面しながら黙りこくっている内に、始業のチャイムが鳴る。それはまるで私たちの始まりの音にも聞こえた。
こうして始まった僕らの恋
(跡部君、顔真っ赤だよ)(お前もな)
――――
すばらしいです。
思わずにやけてしまいました!!
跡部様はやはり、こう…強引でないとっ
なみ様、ありがとうございました!