「そこまで言うなら別れる」

何であんなこと言っちゃったんだろう。
考えれば考えるほど、自分のアホさ加減に泣きたくなってくる。
本心じゃなかったし、今の私は思い切り後悔してる。
原因は本当に些細な喧嘩だったと思う。
その内容さえも覚えていないような、そんな些細なこと。
それなのに、どういうわけか別れ話までに発展してしまって、気付いた時には私たちは違う方向に向いていた。

いつものブン太なら絶対に私を家まで送ってくれるのに、そのときは私をその場に放置してさっさと帰ってしまった。
それから一週間、口も利いてないし、目さえも合わせてくれない。
同じ学校の同じ教室にいてもブン太は私を見ようとはしなかった。
泣きたくて、それでも泣けなくて。
このままブン太は私の側からいなくなってしまう。
そう思うと寂しくて、悲しくて、それでも私はどうすることもできずにただ毎日、惰性のように学校に行き教室で勉強をするしかなかった。
それでも勉強の中身は何にも頭の中には入ってこなかったけど。
鳴らない携帯を眺めては溜息をつく毎日に、心がもう折れそうだった。




 ぐっすり眠れないせいもあるとは思うけど、私が熱を出したのはブン太と口を利かなくなって8日目のことだった。
風邪とかではないはず。
喉が痛いとか咳が出るとかそういう症状もないし、多分色んなことを考えてしまって脳が沸騰してしまってるんだと思った。
いつもそう難しいことなんか考えることなんとんどないのに、ここのところずっと考え込んでしまったから、私の脳細胞がびっくりしてしまったんだ。
そう、所謂知恵熱というものだ。
だけど、学校へ行くような気力もなく、そういう体力も残っていなかったから、親に言われるまま私はその日学校を休んだ。
鳴らない携帯は見るのも辛くて、電源ごと切ってしまった。
こうすれば鳴らないことも気にならないかもしれないと思ったからだ。
今、家の中には誰もいない。
共働きの家だし、それは仕方ない。
お母さんは仕事に行く時には心配そうにしてたけど、私だってもう高校生なわけだし、熱があるくらいでずっと側に付いてもらうことも何だか申し訳なかったから大丈夫だと言った。
何かあったらすぐに電話をする約束をして、少し遅めにお母さんは仕事に行った。
解熱剤を飲んだら少し楽になって、私は知らない間に眠ってしまっていた。









頭を優しく撫でる感触に私の意識が浮上して、ゆっくりと目を開けると信じられないことが起こっていて、だから私はこれは夢を見ているんだと思った。
そうでなければこんな都合がいい話はないと思った。
私の目の前には今だ喧嘩してるブン太がいたのだ。
それも私に優しい眼差しを向けて。
もう一度目を閉じると夢の中のブン太が「おい、起きてるんだろ?目、開けろよ」と言った。
あまりにもはっきり聞こえる声だったから、ぎゅっと瞑った目をもう一度開けてみるとやっぱりそこにはブン太がいて、私の頭を撫でていた。

 「どうして・・・・・・」

「おばさんから電話があって、だから見に来た」

「お母さん?え?何で?」

が熱出してるからって言われて、それで俺が見舞いに来たんだろぃ」

 ブン太は私のおでこに手を当てて、それからちょっとほっとしたような顔をした。
どうしてこうも優しくされるのか分からないから、でもこの現実が嬉しくて私の目からは知らず知らずの間に涙が流れていて、それを止めることができなかった。

 「良かった、熱は下がったみたい・・・ってお前なんで泣いてんの?」
「ブン太ぁ・・・・・」
「どうしたよ。どっか痛いのか?」


私が何も言わないからブン太はおろおろして、私を気遣うように聞いてくるけど、その声にまた私の涙腺が刺激されてどうしようもなく泣けてくる。
あんなことを言ってしまった私にどうしてこんなに優しくしてくれるのか分からない。

 「ブン太ぁ・・・・・」

「何だよ、どうした。泣いてちゃ分かんねぇだろぃ」

「どうして、こんなに優しくしてくれるの?」

「は?」
ブン太は驚いたような顔をして、その後ちょっと怒ったような顔をした。

 「恋人の心配しちゃ悪いのか?」
どうしてこんな弱ってる時に、こんなに泣けるようなことをさらっと言うのだろう。
私は嬉しくてますます涙が止まらなくなった。


「俺、お前が別れるって言ったとき返事したか?してねぇだろぃ。だから俺たちは別れてないんだよ」

「でも目も合わせてくれなかったし、口も利いてくれなかったし」

「ま、ちょっとは怒ったけど、別れるなんてこと考えてねぇっての」

ようやく泣き止んだ私を抱きしめるようにしてブン太はそう言った。
ベッドから起き上がった私に側に置いてあるカーディガンを羽織らせて、コンビニで買ってきてくれたジュースを私に渡してくれる。

私の好きなジュースの好みも覚えてくれていることにまたも私は泣きそうになって慌ててそれを押し留めた。

 「もう嫌われたと思った・・・・・」

「そんなことあるわけないだろ?どんな思いでお前を落としたと思ってるんだよ。そう簡単に手離してたまるか」

確かに付き合いだしたのはブン太からの告白がきっかけだけど、それでも今では絶対に私の方がブン太のことを好きになっていると思う。
いつも人気者のブン太の周りに人が集まってしまうことを、どこか焦るような気持ちで見つめていたんだから。
そんなことを言うとブン太はちょっとむっとしたような顔つきで私に詰め寄ってきた。

 「お前さ、俺がどんな思いでお前に寄ってくる虫を追い払ってると思ってるんだよ。こっちの苦労も考えろっての」

「え?何、それ」

「テニス部の連中だよ。何かと言うとすぐにお前に寄っていきやがって。それにお前もお前だ。あいつらに愛想なんて振りまくな」

「どういうことよ、それ。私、そんなことしてない!」

「い〜や、してるね」

 私たちはまたも言い争いになりそうになって、でもそのことに気付いたブン太が咳払いをしてそれ以上を言うことはしなかった。

 私だって、やっと仲直りができようとしてるのに、新たな喧嘩をしたいわけじゃない。

 「ごめんなさい」

 私が素直に謝ると、ブン太は私をそっと抱きしめてくれた。
























         








が別れると言った言葉に正直いうと面食らってしまったのは事実。
その後に猛烈に襲ってきたのはどうしようもない怒りだった。
些細なことで喧嘩して、それでもは絶対に別れるなんて言葉を使ったことはなかったし、だからこそ俺はそんな言葉を簡単に使うに切れてしまった。
自分でも大人気ない態度だったとは思う。
翌日教室で物言いたげなを目にしても、俺は態と目を合わせようとしなかったし言葉を掛けようとも思わなかった。
そういう頑なな態度を取っていたから、いざ言葉を掛けようとしてもそのきっかけがつかめなかった。

それであっという間に一週間が経っていた。
テニス部の連中はこぞって別れたのかと聞いてくるし、それをどこかで面白がっているような感じがして、俺のイライラはどんどん増していった。
何で俺たちが別れないといけないんだろうと思う。
俺はまだが好きで、きっとも俺のことが好きだろうと思う。
どこか頑固なところがあるだから、きっとここは俺の方が折れないとだめなんだろうと思って登校してみるとそこにの姿がないことに気付く。
まだ始業には時間があるけど、でもいつも早くに登校してくるにしては遅すぎるような気がした。
どうしたんだろうと思っていたとき、バイブにしていた携帯が震えた。
表示を見るとの家からで、でもだったら携帯を使うはず。
何かあったのかとどうしようもないくらいの動揺を抑えて出てみると、それはおばさんからだった。
何度もの家にも行っていたし、おばさんも俺の携帯の番号を知っている。
いつか、何かあったときにと教えていたことを思い出した。


 「もしもし」

『ブン太くん?ごめんなさいね、朝から』

「いえ、何か?」

がね、ちょっと熱でお休みするから、部活終わったら見てやってくれるとありがたいなって思って』

「熱?が?風邪ですか?」

『そうじゃないと思うわよ。咳とかないしね』

「分かりました。俺、行きますよ。連絡してくれてありがとうございます」

『ポストに鍵があるからね。それじゃお願いね』


 そんなときに連絡して来ないに、またちょっとだけ苛ついたけど、でもあれだけ無視してたらそういうこともできないかと思い直す。
きっと心細い思いをしているだろうを思うと呑気に授業なんか受けてられない。
幸い、まだ担任は教室に来ていないし抜け出すなら今だろう。
俺は知らぬ間に走り出していた。
もうそれは本当に無意識といって間違いはないくらいだった。
の家のポストを見ると確かにそこには鍵が入っていて、俺はそれを使って家の中に入った。
誰もいないの家は当たり前だけど静まり返っていて、俺はそっとが眠っているだろう部屋に向かった。
赤い顔をして眠るを見ると俺はやっぱりコイツが好きだと思った。
だからちょっとでも楽になればと思って頭を撫でていて、それに気付いたは目を開けたけど、何でかまた目をぎゅっと瞑ってしまう。
起きたのは明らかで、でも何でかは頑なに目を開けようとしないことに焦れて俺は声を出す。
やっと目を開けたは俺がここにいることが信じられないみたいで、でもその後ボロボロと涙を流した。
これまでも何度か泣かせたことはあるけど、このときはなかなか止まらない涙にこれまでの俺の大人気ない態度が酷くを傷つけたんだと思った。
やっぱりも俺のことが好きなんだと思うと、申し訳ない気持ちと一緒に嬉しい気持ちも溢れてきた。
だから俺はをそっと抱きしめた。
それこそライバルを蹴散らす勢いでやっと手に入れた恋人をそうみすみすと手離してたまるか。
には自覚はないが、コイツは結構なモテっぷりだ。
自覚がないから仕方ないけど、誰にも無邪気な笑顔を振りまくに、どこか苦々しく感じていたのは事実で、でもそんなが分からないことで怒っていても仕方がない。

「ごめんなさい」と言って泣いているを、俺は絶対に手離したくない。
言葉にするときはしないといけない。
でないと伝わるものも伝わらない。


 「、俺はお前が好きだ」

「私も好き」

「だったら別れるなんて言葉絶対に使うな。俺、しばらく立ち直れなかったんだからな」

「ごめん。もう絶対に言わない」

「なら、よろしい。もう終わりな。俺たちの喧嘩」

「うん。うん」


 どうしようもないくらいにのことが好きだ。
多少の喧嘩くらいはあるかもしれないけど、でも絶対に別れたくない。
きっとだってそう。
だったら、別れなければいいだけだ。

















         








翌日元気に登校して、もちろんブン太と一緒に、そうしたらテニス部の人たちが挙って私たちを取り囲んだ。
何が何だか分からずに言われる言葉をブン太が一言で片付けた。

「俺たちが別れることはないから諦めろぃ」

よく分からなかったけど、嬉しいことは確かで、昨日ブン太に抱きしめられて言われた言葉をもう一度実感できた朝だった。
些細な喧嘩は私たちを一層強く結びつけてくれたようだ。
私はブン太のことが誰よりも好きで、この気持ちに嘘はなくて、だからこそブン太が側にいてくれる幸せをずっと感じていたい。
これからもきっといっぱい喧嘩とかすると思う。
でも、それでも私はブン太が好きだし、これからの将来もっとブン太を好きになるっていう、自信がある。
だから、ずっと側にいてね。







神崎様のあとがき☆↓
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特に意味はないのです。
でも喧嘩の後ってどうしても切欠がつかめない時ってあるな〜と思って書きました。
どんなに好きでも喧嘩することだってある。
でもその後はラブラブだぜ!って感じ?になれればいいな・・・
このお話は相互記念ということでさまのサイトへの献上品になります。
等身大のテニスのキャラがいますよ。
ほんわりとした日常がそこにはあるような、そんな感じです。
一度訪問されてはいかがでしょうか。



天宮からのお礼

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 うはぁぁぁ!かっこよすぎるよブン太君!!
叫びながら読みました(笑
嬉しくて嬉しくてうはうはでやばかったです

素敵な話が神崎様のサイトには沢山あります
かなりのお勧めですよ!

神崎様!こんな素敵なお話有難うございました!
これからもよろしくお願いしますです。