act.02_ ヒエラルキー低い仁王



『弟と喧嘩してまさかの追い出された。今日ブン太んとこ泊めてくんしゃい』
「は?」

弟に追い出されるとかお前弱ー! ダサー! 普段からかわれている分俺は憂さ晴らしを交えて仁王をかなり馬鹿にしてやった。電話越しの彼はと言うと、俺が馬鹿にし終わった後もしばらく黙り込んでいて、ああ、こりゃ相当落ち込んでんだなと思った。だからと言って泊めてやらねえけど。俺は丁度部屋に入ってきた弟共の頭を撫でる。よーしよし。
俺が仁王を家に泊めないそもそもの理由というのが、実は前に仁王を家に泊めた事があって散々だったからである。そん時は姉貴と喧嘩して家出したらしいけど。そしたらコイツマジ遠慮ねえの。普段少食の癖に、無茶苦茶食うし、食ったらホントは無理して食ってた吐くううとか唸るし。しかも寝るときは自分がベッドで寝るとか言い張る。いっぺん殺してやろうかと思った。そんな経緯で俺は仁王を泊まらせるの断固拒否。

「他当たれ。ホテル丸井は今日は満室だから。予約しとかないと」
『嘘じゃあああ』
「うるせえよ。つーか今回は何が原因だよ」
『俺が弟のクッキーを踏んだ』
「ごめん意味不明」
『弟の彼女が作ったらしいクッキー踏んで粉々にした』
「ちょっと待って何お前の弟彼女いんの、初耳」
『俺も今日知った』
「じゃあ仁王は?」
『えっ』
「仁王君彼女いましたっけ」
『え、いなかったと思う』
「でーすよねえ」
 
俺はげらげら笑った。俺の笑い声に紛れて、電話越しで微かに「世の中の世知辛さよ」と聞こえた。ていうか俺も彼女いなかった。この若さで知らなくて良いものを知った気がする。俺も仁王も。

「リア充なんか爆発すればいいのにな」
『だから俺は今回リア充を爆発させる偉大なる第一歩を踏み出したと思うんじゃ』
「クッキー踏んだだけでここまで言いきってしまうと俺らも哀れだな」
 
だってそもそも床に置いとくのが悪いしのう。そういう仁王の言い分はもっともだった。でもまあ俺が弟の立場ならキレるけどな。でも今は捨て置く。

「よし、例え世界がお前を非難しようともお前の功績を俺が讃えよう」
『それじゃあブン太の家に』
「お疲れ様」

もう切るな。

『ちょちょちょ』
「何だよ。綺麗にまとまっただろい」
『俺の今晩落ち着く先はまとまっとらん』
「何うまいこと言ってんのお前」

そう呆れる俺の横で、弟達は俺が構ってくれなくなったことに機嫌を悪くしたのか、部屋からばたばたと出て行ってしまった。兄ちゃん超つまんないよな、閉まったドアの向こうからそんなやり取りが聞こえて、
世の中ホント世知辛くなったなと思った。ていうかマジで切っていいか。

『いやいやちょっと待っ、あ、赤也じゃ』
 
どうやら赤也が通り掛かったらしい。微かに赤也との会話が聞こえる。どうしたんスかーとか、俺と同じく、弟に追い出された仁王を馬鹿にする声。そんな赤也はというと、微かに聞こえる会話から推測するにコンビニの帰りのようだった。

『で、仁王先輩どうすんスか』
『おー今から丸井の家に行くんよ。今日は御馳走だから来いって』
「言ってねえよ」
『マジすか丸井先輩』
 
いや、だから言ってねっつの。つか何だし。御馳走だったら尚更呼ぶわけないだろい。しかしながらもはや馬鹿な後輩は聞く耳を持たず。ああ頭が痛い。

「あのなあ、切るぞ」
『おー今から行くけえ』
「来んな」
『赤也も来るって』
「だから来んな。お前ら寝る部屋ねえよ。俺の兄としての威厳もなくなったよ」
『何があったん』
「ほっとけバカ、バカバーカ」
 
もう切りたい。ご飯よーなんて母さんに呼ばれて俺は携帯を切ろうとしたが、雰囲気で電話を切られる事を悟ったらしい仁王が、ちょちょちょちょと制止する。んだよ。今から飯。

『どうしたら泊めてくれる』
「お前のドラクエ持ってきたら」
『おし取ってくる』
「ならそのまま家にいろし!」
 
馬鹿馬鹿しくなって電話を一方的に切った。
その後俺は夕飯を美味しく頂いて、風呂に入ろうとしたその時。母さんに呼ばれて、嫌な予感を抱きながら玄関へ。

「丸井先輩ウィッス」
「ドラクエ持ってきた泊めてくんしゃい」


お前ら何故来たし。



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