※後書きの注意をご覧になってからお読みください。
タイムカプセルを埋めたあのあと、私達は話していた通り赤也のテニスクラブへ行って閉館時間ぎりぎりになるまでテニスをしていた。私は殆ど審判をしていたので、そうでもなかったのであるが、最終的には全員ヘトヘトで、足取りが覚束なくなる始末だった。しかし久々であったからか、また来週もやろうなんて、懲りずにお互い約束をしていたものだから、彼らは本当にテニスが、「皆」でしたテニスが好きだったのだなと思う。 それぞれが帰路につき、家が近くである私と丸井が必然的に一緒に帰る形になって、二人でゆったりと歩きながら、私は隣で疲労で首をもたげている丸井を眺めて、そうこっそり笑った。ふと気づけば、いつだったか丸井と再会したあの公園に丁度差し掛かっていた。 |
「そう言えばここが始まりなんだよなあ」 「…ん?」 その公園の前で足を止めて、私はぽつりとそう零す。へろへろの丸井が、ようやく顔を上げて私の見つめるその先へと目をやった。「何が?」彼はどうやら何の話をしているのか分からないらしい。ラケットバックを背負い直して公園から私へ目を戻した。 「あの日、ここで丸井と会って、私の運命が変わった」 「…、」 「丸井と会わなかったら、きっと『この未来』は来なかった」 「俺、別に何もしてねえけど、」 「それでも、丸井と会ったから、それが私を突き動かしたんだよ」 止まっていた足を先に促すように、私は再び歩き出すと、丸井もそれに合わせて足を進める。少し照れたように、頬をかきながら彼はううん、と唸った。「それじゃあ俺も言うけど」妙なためを作ってから、彼が口を開いた。 「お前がいて良かった」 「…どうしたの」 「…だってそうだろうが。きっかけが俺だったとしても、結局はお前が俺達を繋いだようなもんだぜ?」 「いや、私は別に、むぐ、」 「はい、そういうのナシ。ループすんだろい」 むぎゅりと私の鼻を摘まんだ丸井が、口を尖らせた。その表情が学生の頃と変わっておらず、なんだか可愛いなあと、思ってしまう。それに気づいたのか、彼に何にやけてんだ、なんて、言われたけれどもう社会人になった男の人に可愛いね、なぞ言えるわけもなく、私は「変わらないなあってね」とはぐらかして見せた。 私はそのあとも何かしら言われると身構えていたのだけれど、しかし彼は急に神妙な顔になると、言った。 「変わらねえよ」 「丸井?」 なんだか、私の言っているそれと、また違う話をしているように聞こえた。彼の言葉の意味を探ろうと、私はそのまま彼を見つめ返していたが、それは彼が歩き出したことで遮られた。 「ところでさ今からうちに来ねえ?」 「いきなりどうしたの。丸井の家?」 「あ、お前の家でも良いんだけどさ」 「…丸井、明日仕事は?」 「あるけど、こっちのが大事、みたいな?」 「…はああ?」 腕を掴まれた私は、どうせ遅くなったところで別に困ることはないので丸井に連れられるままに歩いていく。グイグイと引かれる腕に、こういう少し強引なところも、変わらないなあと、私はぼんやり思った。 「丸井、家に弟さんとかいるでしょ。私迷惑にならない?勉強とかの」 「ならねえならねえ。なんなら飯でも食ってけよ」 「えええ…ありがたいけど、ほんとどうしたの」 「んー?決心したんだよ」 「決心?」 「そう。さっきお前、俺がお前の運命変えたっつったろ」 「言ったけど…」 それが何。そんな心境の私の前に、丸井が急に立ち止まったため、鼻を盛大に彼の背中へとぶつけてしまった。奇妙な悲鳴を上げた私は鼻をおさえていきなり止まるなと振り返った丸井に目で訴える。しかし彼はどこ吹く風と言った様子で、私の目の前に指を立てたのだ。 「もっかい俺がお前の運命変えてやる」 「はい?」 「正直諦めてかけてたんだぜ?」 「ちょっと待って何の話を、」 「俺の初恋は中学の時なんだよ」 「へ…」 「俺ってば思った以上に一途だったみたいで?」 そこまで言われて彼の言いたい事が分からないほど、鈍感でも子供でもない。一気に顔に熱が集まるのを感じて、それを隠すように頬を抑えた。「年の割りに反応が初々しいな」カチンと来ることを言われた気がするので、ヤツの足を思い切り踏んでやる。 「な、怒らなくても良いだろい。どうせそんな反応するくらいだ、お前初恋もまだだろ。その年で」 「年のこと何回も…っ言うな!」 「あーあー怒るな怒るな。俺は喜んでんの」 「…はあ?」 「わかんねえ?俺がこんなに思ってやってんだから、代わりにお前の『一番』全部寄越せって話だよ」 そんな台詞を言われて、冷静さを保てる女子がこの世に何人いるだろうか。返事をしない代わりに顔から火が出そうだとくぐもった声で伝えれば、彼は何を思ったか、ようしと腕を振り上げた。「そうと決まれば今から俺の親に挨拶な」待て待て待て!まだ付き合ってもいないし、再会したばかりだし、それに親に挨拶って、いやいやいや。 あまりの急展開に、彼の手を振り払って後退りを始めれば、「何、お前の親が先のが良い?」違う!そういう話じゃない! 「何かいろいろおかしいよ!せめてもう少し段階踏もうよ!」 至極当たり前のことを言った私をしばらく惚けた顔で見ていた丸井が、ようやく動き出したと思えば、彼は咳払いを一つ。それから突然頭を下げて、馬鹿でかい声でこう言ったのである。 「中学の頃から好きでした。全力で幸せにします。俺と結婚して下さい」 返事はしなかった。 結局その日は本当にご飯を食べるだけで終わって、丸井はずっと不機嫌そうな顔をしていたのだけれど、その一週間後、テニスクラブに集まった皆に私と丸井が付き合い始めたというささやかな報告をして驚かれたのは、また別のお話。 BACK ( 私の運命を貴方に // 140211 ) これで本当に完結しました。ここまで読んでくださってありがとうございました。 コメントや拍手をくださった方、読みに来てくださった方、ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございました。 |