私の恋は報われません。絶対的な力を持つ運命とやらのおかげで私は報われません。
きーこきーことぼろっちいぶらんこにゆらゆら揺れる。夕暮れ時の公園はちびっことその親らしい人間の二人だけがいて、しかしソイツ等も今まさに帰ろうとしている。今日の夕飯は何がいいかな、優しい声でチビに問い掛ける母親。私の家の夕飯は何だろう。早く帰らないと怒られるだろうか。今日部活ないし。
それでも私は感傷的な気分なので帰ろうとはしなかった。じゃり、砂を蹴る。もう誰もいないはずなのに私が蹴飛ばした砂は誰かの靴にざらざらともろにかかった。あ。


「何しやがる」
「丸井じゃん」


いきなり現れたのがいけないよね。 今日は一人かい、問い掛けると彼は公園の入口を指さした。茶髪ロングの女がいた。何故彼女は中へ入って来ないのだろう。 しばらく彼女を見つめていると、そいつは私に気づいて手を振った。でも振り返さない。どう思っただろうか。あの子は優しい子だからきっと怒らない。それにしても、ああ、心が醜いね、私。


「お前が元気なさそうにしてたからちょっと気になったんだけど」
「はあ、そりゃどうも」


なるほどな。私は女の方とはあまり話した事ないから気を遣って彼女だけ向こうに待機ってわけか。 ふうんと鼻をならしてから私は立ち上がった。汚いぶらんこだったから制服のスカートも汚くなっていた。どうでもいいけど。


「あのさ、丸井」
「ん?」
「私、死のうと思う」
「……。は?」
「さよならだね」


私がふざけて言ってない事は分かったようで、すっと目を細めた丸井は、 「何で」鋭く言った。前までは丸井のこの表情が怖かった。こんな顔させた日にはそれこそ死んでしまおうと思ったぐらいだ。だって私は丸井が好きだから。嫌われるのが怖かった。誰にも渡したくないから。でも丸井は私のじゃない。入口にいる、彼女のだ。
私の方が絶対丸井が好きなのに。あの女になんか負けないのに。そんな事彼女だって思っているに違いないけどさ。


「なあ、何で」
「丸井が好きだから」


はっと息を飲む音。でもすぐに丸井の表情は申し訳なさそうなそれになる。そんな顔見たくねーよ。私が惨めになるじゃないか。いいんだ、知ってるから。私の恋は馬鹿げた運命とやらの絶対的な力で邪魔されてるんだ。


「…ごめん。俺、お前はすげー良い友達としか、思え…なくて」
「うん知ってる」
「だけど、死なれるのは、やだ」
「私は、生きたくない」



丸井に迷惑がかかるから、死ぬ。お情けで好きって言って欲しいとも思わない。だから屋上から飛び降ります。踵を帰して私は学校までの道を戻って行く。それを丸井が引き止めた。ああ想定内だ。ちらりと入口を見遣ると彼女が色んな意味で不安そうにこちらを見つめている。それを確認すると私は丸井のネクタイを掴んで引き寄せた。唇が重なる。入口の彼女は固まって、すぐに走りさった。あははははざまあみろ。
…おかしいな、何でかすごい泣けた。
涙越しに見る丸井の表情は私を責めているようには見えなかった。いや違う。私の事なんか頭にないのだ。彼女が気になるようだよ。


「行けば?」


誤解解かないの?女の背中を私と丸井は二人して見つめて、だけど彼は追い掛けたいって思ってんだろうな。行けば良いのに。でもその間に私は死ぬよ。お前らが仲直りするのなんか待っててやらねえよ。


「行ったら天乃、…死ぬんだろい…っ」
「死ぬよ。丸井があの子追い掛けたら引き止める人がいなくなるから、死ぬ。…でも行きな」
「行けるわけねえだろうが!」
「言ったじゃん、丸井。さよならだよ」


とん、と丸井を押したが彼が動く事はなかった。何で私こんな事してるんだろうなあ、…むなしいなあ…。だめだ、まだ泣けない。ぎりぎりと唇が切れるくらい噛み締めて、自分の心を押さえ付ける。


「丸井、板挟みとか思ってんの?違うよ。お前を抑える板なんて一枚しかない」
「…っ」
「私はもう死ぬんだからノーカン」


ああ何で報われないんだろうね。 私は絶対にあの子よりも丸井が好きだ。丸井が死ねと言えば死ぬし、母親を殺せといえば殺すのに。 あの子にはきっとそれができないだろうよ。
ううん、違うな、私は本当は知ってる。彼女はできないんじゃなくて、しないのだ。 それが間違ってるって分かってるから。丸井が好きだから、もし丸井が死ねって言っても、丸井のそばに居続けるに違いない。 丸井が優しい丸井に戻るまで、黙って寄り添うんだ。
それでいい、それが正しい。だからあの子が丸井にあってるんだ。私じゃない。


「早く行け」
「だって、」
「もし私が生きたらあの子を殺すよ」
「な…っ!」
「丸井はあの子を救うんだよ」
「天乃、」
「行って!!」


砂を蹴る音。丸井じゃない。私が走り出した。耐え切れなかった。涙が落ちる。 一直線にしばらく走ってから振り返った。夕暮れに染まるそこにはもう誰も、いなかった。丸井は、あの子を救う方を選んだ。 私の命と引き換えに。頭をぐしゃぐしゃ掻き乱して、道路の真ん中に崩れ落ちて。
目の前は涙で滲みすぎてもう何も見えない。 丸井は当然戻って来なかった。
ああ、ああ、報われないよ。報われない。


「…っわぁああぁん!」


屋上から落ちて、血でぐしゃぐしゃになって、冷たくなった私を見ればいいんだ。そして後悔すればいい、泣けばいい。私のことは絶対に、 一生忘れられないのだ。


あはははざまあみろ。


…おかしいな、何だかもっと泣けてきた。




あーあ、世界が笑ってら
(それなら、)(こんなこっけいな私を思う存分笑うがいいよ)



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2ヶ月以上ぶり。
お題見て書きたくなって、勢いで書いたからめちゃくちゃになった。
中2病だと笑ってやってください。でも本気で恋してもし振られたりしたらここまでここまでおかしくなっちゃう気がして書きました。
… ああ、夏休み最後にこれを更新か。
>>天宮 かほ110831