立海マネジ小ネタ集04



母様がギックリ腰になったから私が買い物に行かされた。たかが醤油を買うために7月の微妙に暑い路上を歩く。かったるい。その一言である。
小さくため息を漏らした私が踏み切りに差し掛かった時だった。カンカンと踏み切りの音を聞きながらふと向こう側見ると、そこに仁王が見えた。彼は私に気づいていないようで、踏み切りを通り過ぎようとしていたが、私があー、なんて声を漏すなり彼はこちらに振り返る。そんな馬鹿な。向こう側に声が聞こえたのか。踏み切りも鳴ってるのに
仁王は私にひらひら手を振ったからとりあえず醤油を振り返す。彼はそんな私に苦笑して、何か言いかけたがそれを遮るように電車が通過した。


「…何」


醤油の袋をぷらぷらと振りながら踏み切りが上がるのを待っていると、それが上がるや否や、仁王が小走りに私の元へやってきた。何で来た。お前明らか踏み切り渡らない雰囲気醸しとったのに。


「どうしたの。休日にこんなとこにいるなんて珍しいね」
「お前さんこそどうしたんじゃ」
「母様がギックリ腰でちょっと買い物」


ぷっと小さく噴き出した仁王はそうかそうかと何故か私の頭をぽんぽん叩いてから手をとった。はい?首を傾げる私に、彼はちょっと付き合いんしゃいなんて言う。え?やだよめんどくさい。


「ええー私醤油持ってるから」
「んなの知らん」
そんな馬鹿な

知れよ。つか目の前にあんだろYOU!
行きたくないよと口を尖らせて拒否ってると、不意にまあ!なんておばさんくさい声が聞こえたから私達はそちらに目を向ける。


「娘じゃないか」
母様じゃないか


ジャマイカじゃないか!どうでもいいね、うん。言いたかっただけだよ悪いか。
つか何で母様がここにいるんだよお前ギックリ腰じゃなかったのかよ、余命1日で死ぬ前に娘が買ってきた醤油が飲みたいとか言っ、嘘かあああ!嘘なのかあああうおおおっ


「ギックリ腰は治ったわ。母さんの若さで」
「おま、ちょ…マジ、……えええ
「ところで」


何がところで、だよ。話題を変えて良いなんて誰が許可した。母様はニコニコしながら仁王を見つめて彼氏?と首を傾げる。あー違う違う、ねえ仁「そうです」えええマジでか知らなかった。まあそれでいいやめんどくさい。母様はそれを聞くと更に嬉しそうな顔をして、お邪魔だから帰るわね、とか余計な気を回してくれちゃったけど私はとりあえず彼女と一緒に帰ろうとした。だって醤油があるしね。


「じゃーね仁王」
「おいこら娘」


何だい母様。
彼女は私から醤油を奪うと帰っちゃだめだよなんていきなり破門された。何故だ。


「仁王君の相手してあげなさい」
ホステスですか
「そうよ」
「言い切られたし」


もうやだ。醤油返せ妖怪ギックリババアが。
遊んでらっしゃいなんて無理矢理私を仁王の方に追いやるので、仕方なく破門されてやった。

そんな私を置いていく小さくなる母様の背中を見つめて私はため息。


「元気出しんしゃい」
「結構君のせいだからね」
「んー」


絶対悪いと思ってないよねコイツ。良いけどさ別に。それよりどこに行くの。そんなについて来て欲しい場所があるならついて行ってやるけど。


「ない」
帰るね私
「俺は天乃と一緒にいたかっただけじゃし」
「ふうん」


そんなの知らねえし。帰ると再び口を開こうとしたら仁王は私の手を握って歩きだしたから、つい、えーなんて声を漏らす。するりと指を絡められたから妙に恥ずかしくなってきて、気を紛らわすために前髪をいじってみた。何も変わらないけど。


「天乃、顔赤い」
「錯覚だと思うよ、うん」


おかしそうに仁王は笑いながらデートじゃなあなんて呟いたから、これが世に聞くおデートというやつなのかとしみじみ握られた手を握り返してみた。むっちゃ指絡まってんね。


「…、握り返されるとは思っとらんかった」
「へえ。離そうか?」


仁王は黙ったままだったからとりあえず離さないでいたら、少しだけ嬉しそうに微笑んで、歩みをすすめた。




その手が、そのぬくもりが、
(やっぱ離したくない)

……………→
皆さんお待ちかねの仁王さんです、はい。
え?待ってない?まあいいです。
>>天宮 かほ110416