立海マネジ小ネタ集03 見慣れた後ろ姿が見えて、無意識のうちに名前を呼んだ。 名前を呼ばれた彼女は数時間前に部活で会った時となんら変わらないゆったりしたペースで振り返り、すぐに目を逸らす。 「今の反応のわけを聞こうか」 「ごごごめごめごめんなさい」 「吃りすぎだよ」 逃げようとしていた天乃に追いついた俺は逃げられないようにガッチリ腕を掴むと彼女は怯えながら買い食いなんてしてないですと呟いた。何だろう俺先生か何かと間違えられてるのかな。 「それにしても、どうしたのこんな夜遅くに」 そう尋ねてみると天乃は慌てて後ろにコンビニの袋を隠した。 いや今さら遅いんじゃないかな。 というかもう9時なのにコンビニ行くなんて危ないなあ。仮にも女の子なのに。仮にも。 「ね…猫の散歩」 「とりあえず猫を連れてない事には触れないであげるよ。というかどこにツッコめばいいか現在進行形で分からないしね」 「幸村にも分からない事があるんだね」 「天乃の事は基本何も分からないかな、いや照れるとこじゃないよここ」 ホントに天乃は不思議な子だと思う。彼女は、心の綺麗な人にしか見えない猫がいるんだーなんて騒ぎ出して挙げ句の果てになぜか焼きそばパンを食べ始める。 ああそれを買いに行ってたんだね。 「ち、違うよ!焼きそばパンなんて買ってないよ!猫がっ…ここに猫がいて…綺麗な心じゃないとっ」 「へえ、俺には見えないけど、そういう事か」 「そういう事じゃないですマジですいません焼きそばパンで許してください」 ちょっとからかっただけなのにな。クスリと笑った俺は天乃の手をとって歩き出す。彼女はちょっとだけ照れながらどうした幸村よ、なんて聞いてきたから暗いからねとだけ答えたら天乃は妙に納得したように頷いた。 「それにしても幸村はどうして外に?危ないじゃん」 「お前にそっくりそのまま返すよ」 「うえええ」 「フフ、なんてね。散歩だよ」 たまに夜、外に出たくなるんだ。そう答えると天乃はふうんと呟いて繋ぐ手に少しだけ力を入れた。心配だなあ、なんて。 「きっとそれ夢遊病で」 「散歩だよ」 「だよね。冗談」 はは、と笑う天乃にお前こそ夜遅くに危ないだろと言うと彼女は少し困惑したように俺を見た。大丈夫だよ、と。 「幸村は兄みたいだね」 「え?」 「私には兄弟いないから分からないけど、兄みたいだ」 「へえ…兄、か」 天乃は兄みたいな優しさを向けられたときの対処が分からないと何のためらいも無く口にしたから少しばかり驚いて俺は立ち止まった。 「…馬鹿だな天乃は」 「え?」 俺は天乃の手をパッと離して来た道を戻る。天乃の家の前についていたからだ。 ちゃっかり送っちゃったな、なんて苦笑してみた。 「天乃に対する優しさが、兄の優しさなわけないよ」 今日はやけに肌寒い春の夜だと思いながら、俺は歩くペースを速めた。 夜ごと奪って (そのまま攫ってしまえたら良いのにね) ……………→ 幸村って『3』なイメージがある(いきなりなんだ)。 小ネタ3は幸村を書こうって決めてたんです。 >>天宮 かほ110405 |