「やっほーちゃんとやってるかな居残り君」


数学の居残りなんてやってらんねー。なんだよ、テストでちょっと手を抜いて白紙で出しただけだろい。
我がB組の教室でそんな風に一人、頭を垂れた時、ふと腑抜けた声が聞こえて俺は顔を上げた。天乃じゃん。何でここに。
彼女は白い袋をぷらぷら振りながら俺の隣にやってきた。


「え、お前部活は?」
「私やることなくて暇を謳歌してたのに、丸井がしっかりやってるか真田に様子見てこいっつわれたー」


馬鹿よね、私も一緒にサボるってのーなんてケラケラ笑いながら俺の隣に座った天乃は差し入れだと袋からケーキを出した。調理実習で友人が作ったものらしい。差し入れって、え、俺がもらっていいの?


「いやあげないですけどー」
何なんだよお前。なら最初から差し入れとか言うなし
「あれ言ったっけ」
バリバリ言った
「うそーん」


まあいいよあげないから、なんて俺にしちゃ全然よくねええ。
目の前で食うとか鬼だろい。天乃を睨みつけていると彼女は袋の中から箸を取り出し…、いやいやいや何で?まず問いたい。何で?


「フォーク持ってなくてさあ」
「すっげえシュール」
「洋風と和風のコラボレーションだね」
「そんなコラボ正直いらねえ」


何だか余計疲れた事を感じつつ仕方なく数学の課題に取り組んでいると、ふいにあげるよ、と天乃が箸を差し出して、その先には串刺しにされた苺。いや、まあ箸でつままれた苺も嫌だけど。串刺しか。てか何。くれんの?ショートケーキは苺があってこそなのにそれをくれちゃうわけ?


「これは激励として。とか言って実は苺嫌いなんだよね。よっ残飯処理はーん」
天乃それ全ての言葉を台なしにしてんの分かってる?
「え?いらないの?」
「いやいる、…けど」


これって間接キスじゃね?焼きそばパンの事もあるし俗に言うラブハプニングというやつは2回目であるが意識しないわけがない。ためらっていると無理矢理押し込まれた。いててて、ちょ、は箸、箸刺さっ刺さってるっつってんだよ。


「ああ、ごめんね。でもおいしかったでしょ」
「…まあ」


俺の返事にニコリと笑った天乃は手元の課題を見つめた。あとどれくらい?なんて。まああと2問なんだけど、(何だかんだで一生懸命解いてはいたんだぜ)分からないからシャーペンが止まっている。天乃はそれを見るとあとちょっとなんだからがんばれよーとか早くーとか、俺を急かし始めた。


「早く部活にきてよ。丸井がいないと誰が私のボケにツッコむの」


そう言ってダラダラと机に突っ伏す天乃に俺は目を丸くした。え、俺に来てほしいの?その問いにためらいもなく天乃は頷く。幸村のツッコミだと私は死んでしまうううとか言って。


「だから早く」
「そんな事言われたってよ」
「仕方ないなあ」


ふいに天乃は俺の目を手で覆った。は、え、何?!隠された視界は数秒で開けた。
再び課題に目を向けると答えが全て書き込まれている。


「頑張ってツッコミに徹している丸井へ、天乃さんからのサプライズプレゼント」
「…え?」
「私が今日丁度理解した分野で良かったね」


今日だけだよ、と肩を叩いてダラダラと立ち上がった天乃は俺を見つめて早く行くよツッコミ君なんて苦笑した。






どうしようしあわせすぎる
あとで柳に聞いた話じゃ苺は天乃の大好物だとか。

……………→
春の記録の話だと思う。
他のキャラの話で読みたいのとかあれば言ってください。多分書きます。
>>天宮 かほ110403