ギラギラと容赦なく照り付ける太陽。 俺はそれに悪態をつけながらバックからタオルを乱暴に取り出した。 (あーあちー) 夏休みの部活は全国が近い事もあって、かなりハードだ。 暑い上にキツイ。 だから疲労度もイライラ度もMAXに到達しそうだった。 それでも赤也やジャッカルに八つ当たりすれば幸村や真田に一喝くらって練習量を増やされるのは目に見えてるから我慢してるけど。 俺は重い足を必死に動かして水道の前まで来た。 蛇口を捻ると予想通り太陽で温められた水、というよりお湯が溢れ出る。 それに苛立ちを感じながら水が冷たくなったのを確認すると蛇口の下に頭を持って行った。 じわじわと頭が冷やされていくのがわかる。 ちょっと疲れがとれた気がした。 俺は水を止めてタオルで髪をふく。 水同様にこれまた生温い風が俺の頬を撫でた。 「ふぃー…」 空を見上げ、校舎の方に視線を移した。 自分のクラスの窓際に誰かいて、それがアイツだとすぐ分かった。 頭がいいくせにわざわざ学校で行われる夏期講習なんかに参加しているらしい。 話した事なんて数えるほどもないし、席だって近いわけでもない。 それでも俺はアイツが気になって仕方がなかった。 『お前頭いいよな。尊敬するぜ』 前にそんな事を言った。 『私は丸井君を尊敬してるよ』 『は?』 アイツは俺にニッコリ微笑んでそう答えた。 『何で?』 『えー?頑張り屋だから』 人一倍練習してるよね、なんて本当に優しそうな目で見つめてきたから茶化すつもりが、つい素でありがとうなんて答えちまったんだ。 それからだ。アイツが気になりだしたのは。 再び校舎に目を向けると頬杖をついてやっぱり机と向かい合っているアイツがいた。 講習はとうに終わっているはずだ。 それなのに残っているということは一人で勉強しているのだろう。 俺は校舎の方に足を進めた。 確かあと休憩15分くらいあったよな。 *** 教室の前まで来ると急に心臓が速くなりだした。 何話そう。何て声かけよう。 まだドアを開ける勇気すら出ていないのに無駄な事をぐるぐると考える。 どうにでもなれ! 勢いよくドアを開けるとアイツは机に伏せていた。 風がカーテンを揺らす。 アイツのスカートを揺らす。 「おー…い」 わざと小さな声で声をかけるもやはり返事はなく、呼吸を整えてからゆっくりと歩み寄った。 真っ白な肌が眩しい。 耳にかかっていた茶色い髪が風でサラリと落ちて頬にかかる。 俺はその髪に触れ、耳にかけ直してやる。 外はこんなに暑いのにコイツの肌はひんやりしている。 「幸せそうな顔して寝てんな」 無防備にすぎてかっさらいたくなる。 無防備にすぎてもっと触れていたくなる。 時間がこのまま止まっちまえばいいのに。なんてくだらないことを考えてため息を漏らすと「うー…ん」なんてちょっと不機嫌そうな声が聞こえた。 俺は慌てて手を引っ込める。 「…丸井、君…?」 顔をゆっくり上げてぱっちりした目で俺を見たあとあの優しそうな顔で笑った。 「やっぱり丸井君だ」 「お、う」 取り合えずぎこちなくだが微笑み返して窓の外を見た。 「今日、部活なんだけどさ」 「うん。知ってるよ。見えた」 窓の外を指差しながらそう言い、さらに続ける。 「来ないかなって思ってた。そしたらホントに来た」 えへへなんて屈託の無い顔で笑うから目が合わせられなくなる。 なぁ、それって期待していいって事だよな? 「丸井君?」 「あのさ、」 「うん」 言っちまえ。 勇気だせ。 「もし、俺が」 無防備な君に、 「お前の事好きって言ったらどうする?」
この想いを。