「夏だねー」 「夏じゃの」 「夏ッスね」 「…アンタ達ほかに言うこと無いわけ?」 私はかったるそうに歩く仁王と赤也を見た。 さっきからこんな調子で会話の花も咲かない。後ろから一メートルくらい離れてついて来る真田やらブン太やら幸村やらの他のメンバーも何故かさっきから黙りこくっている。 私達はついさっき赤也の大学卒業パーティーをやってきたところで、少なからず皆お酒ははいってるはずなのに、つまらないことに皆お酒には強いから誰も饒舌にならない。 まぁ、居酒屋で飲むだけのたいしたパーティじゃなかったし、そこまで盛り上がらなかったからからあまり酒を飲んでないってのもあるだろうけど。 「つかさ、疲れた」 ブン太が情けない声を出して呟いた。 「なんでこの歳になって誰も車持ってねーんだよ…」 「自分だってもってないじゃん。仕方ないでしょ。しゃんとしなさい」 ・・・と、言ったものの確かにダラダラと真夏の夜道を歩くのも疲れるわけで。 それなのに誰一人車を持ってないという。 私はバイクなら持ってるのよ。 確か赤也も持ってたはず。 その時微かに太鼓の音やら笛の音やらが聞こえて私は足を止めた。 「お祭りやってるんだね」 「行きたいんスか?」 「いやー…そうじゃないけど」 なんか懐かしかったんだ。 「皆で行ったよね、中学の時」 「そういえばそうだね」 幸村も嬉しそうに音がするほうを見つめた。なんだかその表情は中学生のときの面影がある。 「楽しかったなー」 「こちらとしては大変だったがな」 「そうだな」 柳と真田が苦笑して呟いた。 ジャッカルも柳生も頷いている。 そういえば色々迷惑かけたわね。 「ブン太とか食べ物の屋台制覇するとか馬鹿みたいなことしてたしのぅ」 「う、うっせーな」 ブン太は恥ずかしそうにそっぽを向いた。 「恥ずかしがる割に、まだ食い意地が張ってるけどね」 幸村はにっこり笑って言うと、ブン太はさらにバツが悪そうな顔をした。 「・・・ほんと懐かしいな」 もう一度呟いて目を閉じた。 今でも鮮明に覚えてる。 皆で食べたアイスの味も合宿に行ったときの宿舎の埃っぽい匂いだって、今では大切な思い出としてちゃんと覚えていて。 大人になった私達。 中学生の時はまだまだ先のように思えて、ただ毎日を流れにまかせて過ごしてきたけれど、思えばそれはあまりにも短すぎたように思う。 私達はまだまだ一人では生きて行くには弱すぎて、それなのにいつの間にか私達は大人の世界に放り出されていた。 その世界で自分だけで生きなくてはならない。 変わっていってしまう。 皆が大人になってしまうんだ。 怖くて、寂しくて、そんな気持ちに押しつぶされそうになったことは何度もあった。 私が急に黙りこくったので不安になったのか、赤也が早口に喋り出した。 「そういえば、お祭り行くと必ず先輩は事件に巻き込まれてましたよね」 赤也はにひっと私を見て笑った。 「え、えぇー?」 そうかなと後ろを振り返ると皆笑いながら頷いていた。 「おまんはトラブルを呼ぶのが上手じゃき」 「嬉しくない…」 「ナンパとかされちゃってたもんね」 「ゆ、幸村ーっその話は…」 はっずかしいから! やめて!!ほんと! 「うむ、たまたま俺達が皆見ていない時だったな」 「本人ははナンパされている事に気づいていなかったみたいですがね」 「おごるって言われてついて行ったんですよね?」 「違ーう!ついて行きかけただけっ」 「俺達が来なかったらついて行っていたのだろう?」 「う…」 その通りです柳さん。 「『俺の連れに何してんだよ』でしたっけ?」 急に赤也が楽しそうに口を開いた。 忘れもしない、あの言葉。 「ぎゃー!恥ずかしいから言わないで!」 「赤也、てめぇな…」 ブン太は赤也に今にもつかみ掛かりそうで、私もぶん殴ってやろうかと思った。 今の台詞は私がナンパ男に連れていかれそうになったときにブン太が言った言葉である。 あの後仁王とか幸村とかに冷やかされたことだって、ちゃーんと覚えてるんだから。 「『俺の』がポイントだね。俺達もいたのに完全無視だよ」 幸村がすごく楽しそうに私とブン太を交互に見た。 「そのあと軽く二人の世界に入ってたしな」 「はあ?!何言ってくれてんのよ、ジャッカル!」 「ははっ」 「『ははっ』じゃねーよ、ったく」 「俺は今でも彼女受付中じゃからな。ブン太が飽きたらいつでもきんしゃい」 「あ、俺もっスよー」 「それじゃ俺も名のりをあげておこうかな」 「「付き合ってないっつの!」」 見事ブン太と声が重なって皆に冷やかされる。 「あーもうっ…私はね、皆大好きだから!」 「だって。残念だったねブン太」 「…」 まだ言ってるよもう。子供なんだから幸村は。 なんて考えてたら不意に夜空が明るくなった。 「え!…あっ花火!」 「キレイじゃのー」 すごく綺麗で、すごく切なくなった。 「・・・またお祭り行こうよ」 ぽつりと呟いた言葉に、誰もが頷いていた。 またこのメンバーで、絶対に。 「そうだ!!花火買ってこよっか!」 私が言うと皆「仕方無いなー」と笑いながら言ってあるきだす。 その風景もなんだか懐かしく感じられて、凄く不思議な気持ちになった。 「花火とか何年ぶり?」 「どうだろうなー…」 ジャッカルが空を見上げて呟く。 「わかんねぇ」 花火も大方やってしまい、「最後はやっぱロケット花火っしょ」という赤也の言葉に皆いそいそとロケット花火を用意し始めた。 皆子供の頃に戻ったようにはしゃいでいる。 そんな様子を私とブン太はそれをただぼんやりと眺めていた。 「ね、ブン太」 「…何だよ」 気づけばブン太を呼んでいて、横をむくとブン太と目が合った。 ずっと秘めてた想いがある。 「好きだよ」 ドンっと派手な音がしてロケット花火が上がった。 赤也が騒いでいるのを見て私はくすりと笑う。 「お前、さ」 「ん?」 ブン太の顔が少し赤かった。 「言うの遅い」 「えー何それ」 「俺ずっと待ってた」 「…うん」 とんとぶつかったブン太の手が私の手をぎゅっと握る。 「俺も好きだ」 手を握り返して私は笑った。 「実ははね、私も待ってた」 「そっか、じゃ言えば良かったな」 「そうだねー」 何だか中学の時に戻ったみたいで、くすぐったくなった。 皆変っていなかった。 今も昔も変らない、そしてこれから先も変ってほしくない。 忘れない。 今日の事は決して忘れないから。 今も昔も遠い未来もすぐ側に (…先輩達、手繋いでますね) (赤也、ほら見ない見ない) (邪魔するのもかわいそうだからのぅ)