「せんぱーい!!」

 放課後、ガラガラーっと教室のドアが開いたと思ったら。 

今日も来た、悪魔が。 

 「げ、来た!」 

 私は教室から飛び出し全速力で逃げる。 

 「今日もやってんのかよ、ご苦労だな」 

 逃走中に丸井とすれ違ってそんなことを言われた。 

 「そんなこと言ってないで何とかしなさいよ!アンタんとこの後輩でしょうが!」 

「そんな暇ねーよ。今日は部活無いから今からバイキング行く、ということでお前らに構ってるヒマはない」 

「はぁぁあ!?」 

 丸井はニッと私に笑ってから後ろから追い掛けてくる切原赤也に「よっ」なんて声をかけている。 

何よ丸井のやつ…っ 

私だって今日が唯一の休みなのにぃいぃ! 

後ろをチラリと見ると赤也はもう追いつきかけている。  

「ひぃいい!」 

 切原赤也は何かと私に付きまとってくる奴だ。 
初めて会ったのは確か4ヶ月くらい前で、その時初対面にもかかわらず 

「今度差し入れ持って来てくださいっス」 

とか言い出してきて、なんだコイツとか思った。 
私は女テニの部長で差し入れなんか渡している暇は無いし義理もない。 

 しばらくは何を言われてもスルーして切り抜けてたのに、私が女子中学テニス大会で優勝したと知ってからさらにしつこく付きまとってきた。 

試合しましょって。 

会う度に言ってくるもんだから会わないようにしてたら、ついに教室までやってきて挙句の果てに追いかけてくる始末。 
「強い奴と手合わせしたがるんだよ」 
と丸井が言っていた。 
良い迷惑だ。 

 

 「待ってくださいよー!」 

「いーやー!!」 

 もう勘弁してください。 
私は階段を駆け上がる。
上って上って…って、しまったー!! 

この先には屋上しかない。 
つまり逃げ道なっしんぐ!? 

とりあえずここまで来てしまったから屋上に出る。 

 「…ダメだ。逃げらんない…」 

 もうやだ助けてとか思った瞬間、肩をガシリと掴まれた。 

   あー…終わった。 

   私の人生終わった。 
    さよならマイライフ。 

  「ちょ、先輩なんで逃げるんスか!?」 

 息を切らしながら私に詰め寄る赤也。 

こここ来ないでよ! 

 

 「だってアンタ怖いじゃん!良くない噂もききました!」 

 足潰されたとか、入院させれたとか。 
てかほんと来ないでください!腕掴まないでください。ほんとに! 

 「大丈夫っス!先輩には優しくしますから!」 

「何かその言い方やだ!」 

 とてつもなく他意が感じられるんですけど。 

 「てかね、私は赤也と対等に戦えるほど強くないから勘弁して」 

「・・・は、先輩何言ってんの?」 

 コイツの言い方にはいちいち腹が立つのはなぜだろう。 

 「今日俺、試合しましょって言いました?」 

「言っ………てないね」 

「でっしょー!人の話しはちゃんと聞かないと」 

 うわー何か超腹立つわ。 

「あいにく、人の話しを聞く耳はあるけど悪魔の話しを聞く耳は持ち合わせてません」 

「うっわ、ひど!」 

 酷いのはどっちよ! 
こうしている間に刻一刻と私の部活がない放課後という貴重な時間は無くなっていくのよっ 

 「試合じゃないなら何、私は暇じゃないの!」 

 私は赤也の腕を振りほどいて背を向けあるきだす。 

 「すんげー大事な用事なんスよ」 

 私は足をピタッと止めて少し後ろを向いた。 

 「すんげー大事な用事?」 

「そ、一生に関わることッス」 

「何よ、そ……わっ!」 

 振り返ろうとした瞬間、ぎゅうっと抱きしめられた。 

 

 

 「好きっス先輩」 

 

 

「は…」 

「何かいつの間にか好きになってた。試合とかもうどうでもいい、ただ毎日先輩に会えれば良いんスよ」 

 何だか嬉しそうに言葉を紡ぐ赤也がとても無邪気に見えた。 

 「ただ会いたくて」 

 赤也はもう一度つぶやいて恥ずかしそうに笑った。 

 「な、だから毎日毎日…」 

  「だって待ってても来ないからさ。だったら、自分で動こうと思ったわけよ」

「だったら…もっとマシなやり方ってもんがね…」 

 私は苦笑して呟いた。 
ま、らしいと言えばらしいけど。 

 「あれしか思い付かなかったんスよ。…でも何もしなかったらいつまでも俺を見てくんないっしょ」 

「確かにそうだね」 

 私もつられて笑うと赤也は私からぱっと離れて言った。 

 

 「アンタの事すげー好きだ」 

 ドキンと心臓がうつ。 
今まで見たこと無いような真剣な表情で、私を見てる。 

 「…っ」 

「あ、もしかして今ので惚れちゃいました?」 

悪戯っ子みたいに笑った赤也。 
顔が熱くなるのが分かった。 

 

 「…ばーか」 







動は思うより正直
               (し、心臓が早いのは…きっと走ったから、…だよね…?)





―――――――

あとがき
赤也君との初恋夢です。
甘く、甘くのつもりでしたがなかなかうまくいきませんでした。



【お題提供 :恋したくなるお題 様より、『鼓動は思うより正直』 】