新年度早々、誕生日を迎えるなんて私からしたら憐れ以外の何者でもなかった。新しいクラスなんて最初のうちはどこかぎこちなくて、よそよそしい香りに溢れているし知り合いも多分少ないだろう。だからそんな雰囲気に囲まれていては、周りに誕生日プレゼントをせびるどころか、日付を知ってもらう前に一大イベントが過ぎ去ってしまうわけで。まあ3年にもなれば知り合いも増えて話は変わって来るだろうが、ああ、ただひたすらに憐れ。それが、私が丸井ブン太という男に対して抱いた最初の感情だった。![]() 窓際最後尾。ここからはクラス全体がよく見える。ついでにグラウンドもよく見える。なかなか良い席を貰ったと小さく笑みを零す私に、突然タックルを繰り出したのは結局今年もクラスが同じだっただった。彼女は上機嫌そうに、良いクラスねなんてクラスを見渡す。まあ悪くはないだろう。苦手な人間とはクラス離れたし、何よりこの席が良い。私が素直にそう答えればは違うってば、と大袈裟に肩を竦めて見せた。 「丸井ブン太と仁王雅治が同じクラスだからに決まってんでしょ」 「…ああ」 どーでもよ。とは流石に言えなかったので心の中で付け加えて窓の外へ視線を逃がす。桜の花が何だか眩しく見えて、私は目を細めた。立海は桜の木が多いから好きだ。こんな景色を眺めてずっとまどろんでいたい。 「ちょっとちょっと、自分の世界に入らないでよね」 「…だって、別に私は嬉しくないし」 「なに淡泊ぶっちゃってんのよ」 「いてっ」 何も叩かなくたって。ぴりぴりと痺れた背中をさすって私はに仏頂面を向けてはみたが、磨きあげられたスルースキルのお陰で、彼女は大して気にならないようである。全く、面食いの彼女には毎度の事ながら困ったものだ。彼女は丸井ブン太推しらしいけれど、私からすると丸井君だろうが仁王君だろうが同じ顔に見える。もし髪の色が同じ色だったならば、きっと私は見分けられないだろう。もしかしたら兄弟なのかもとか思ったりね!ウケるかと思ってそんな事を言ったら頭を思い切りひっぱたかれて、彼女はどこから出したか二人の写真を私に突き付けた。ぜんっぜん違うじゃない。ヒステリックに叫ぶ。 「えええ。どこら辺が」 「違うし、ほくろとか違うし」 「ああ、皆そうやって見分けてるの」 「それも違うから」 雰囲気で分かるでしょインスピレーションだよ!はご丁寧にきゅぴーんとか効果音までつけて、私に長年研究したというキメ顔を曝したけど、ええと、とりあえずインスピレーションの使い方間違ってるよ。親切心で言ったそんな私の訂正も虚しく、彼女はまあ要は骨格が違うんだねと普通の答えを返した。私は最初からそう言えよと思いながら、試しに向こうで会話してる丸井君と仁王君に目をやる。ふと丸井君がこちらを向いた。ばちり、そう聞こえてくるんじゃないかという程しっかり目が合って、私はぎょっと目を見開いた。どうしよう。感じ悪い奴だと思われやしないかと私は目を逸らすに逸らせないでいる。そのまま数秒。その状態から私はついに耐え兼ねて、へらりと笑って彼に手を振ってみた。するとその瞬間彼は吹き出し、そんな丸井君に驚いた私は相当間抜けな顔を曝していたのだろうが、丸井君も丸井君で、隣にいた仁王君に怪訝そうな視線を浴びせられていた。何かおかしかっただろうか。 「…どしたの?」 「…え?あ、いやっ……別に」 私は大袈裟に顔の前で手を振れば、煮え切らない様子で彼女はふうんと頷いた。それから私は彼女に怪しまれないようにそっと丸井君を一瞥する。彼はもうこちらを向いていなければ、お腹を抱えて笑ってもいなかった。 「あ、私丸井君狙いで行くからも手伝ってよね。イケメンげっつ!」 「ええええ」 確かに顔は格好悪くはないと思うけど、たったそれだけの理由で狙いに行くのはどうかと。ていうか頭赤いし、見るからに不良の匂いするし、いきなり笑うし。ここは友人として止めた方が良いのだろうか。…いや、しかしこれで彼女が多少なりと痛い目を見て、お灸が据えられるのなら良いのかもしれない。 私は程々にね、と苦笑を零すると、しかし彼女はアンタいい加減人を見た目で判断すんのやめなさいよとまるで私の心を読んだかのように、こちらを見たものだから、私は肩を竦めるほかなかった。そりゃあ…そうだけど。そんなこと言ったらだって顔だけで丸井君を選んでるじゃないか。しかし私の言葉はもはや彼女には届いてはいないのだと思う。 「ああ、私の桃色ライフが手の届くその先に見える…!」 それバラ色じゃね、と思ったのと同時に、向こうの丸井君が何かを察知して身震いしていたのは内緒にしておこうと思った。 |